「心の科学の基礎論」研究会

2007年の活動履歴


第53回研究会

日時:2007/11/24(土) 1:30〜5:45

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟4階 第5会議室

1)中村美亜(東京藝術大学他/性科学、文化・表象研究)

「“心の性別”をめぐる対立論争を越えて〜科学が本当に究明しなければならない課題とは」

 性同一性障害の認知が広まるにつれ、ジェンダー・アイデンティティ(日本語ではしばしば「心の性別」と訳される)に関する研究が、自然科学・人文社会科学の両分野で多く行われるようになった。しかし、ジェンダー・アイデンティティが何かという前提が共有されていないために、先天的か後天的か、あるいは生物学的(本質主義)か社会学的(構築主義)かという対立論争が生じてしまい、実りある科学的探求が十分に行われているとは言い難い。本発表は、生物・医学において、ジェンダー・アイデンティティがどのように概念化され、実体化されてきたかを、ジェンダー研究の知見を用いて批判的に検証することを通じて、この概念そのものが内包している矛盾点を指摘する。そして、ジェンダー・アイデンティティの新たな理論的枠組みに関する試論を紹介しながら、現在、科学が取り組まなければならない本当の課題とは何か考えていく。

参考:
◆『心に性別はあるのか?:性同一性障害のよりよい理解とケアのために』(医療文化社 2005/9/10)
◆「新しいジェンダー・アイデンティティ理論の構築に向けて―生物・医学とジェンダー学の課題」(『ジェンダー&セクシュアリティ』第2号、2006年、pp.3-23)
http://www.postmodernclinic.com/(中村美亜さんのホームページ)

2)佐々木掌子(慶應義塾大学大学院社会学研究科・日本学術振興会特別研究員/臨床心理学)

「ジェンダーをめぐる遺伝と環境――生物学と社会学をつなぐ行動遺伝学の視点から」

 ジェンダー・アイデンティティの形成に、生物学的な影響と心理社会的な影響のそれぞれが関連しているということについては、多くの研究者の同意が得られているところである。しかし研究方法論の限界から、それら要因がどのように影響しているのかを明らかにすることは困難であった。この橋渡しを行える方法論が、「行動遺伝学」である。2002年にScience誌をにぎわせたMAOA活性と不適切な養育環境との関連をみたCaspiらのG-E interaction(遺伝環境交互作用)の研究は、ある遺伝的傾向をもつ人々が環境と相互作用することで初めて、ある表現型を発現するということを実証した研究として名高い。このように、行動遺伝学にはその洗練された統計手法に基づく方法論の頑強さに加え、遺伝の影響のみならず、環境の影響も含めて検討することができるという強みがある。当日は、ジェンダーに関するこれまでの行動遺伝学研究を紹介し、どのように遺伝と環境の双方の影響がかかわりあっているのかを考えたい。

参考:
◆ 佐々木掌子 (2006) ジェンダー・アイデンティティと教育 −性的自己形成における遺伝と環境− 三田哲学会誌「哲学」,第115集,305-336.
◆ ケリー・ジャン (2007) 精神疾患の行動遺伝学 何が遺伝するのか,安藤寿康・大野裕(監訳);佐々木掌子・敷島千鶴・中嶋良子(共訳),有斐閣
◆ 慶應義塾双生児研究グループのホームページ: http://abelard.flet.keio.ac.jp/kts/index.php


第52回研究会

日時:2007/7/21(土) 1:00開場 1:30開始〜5:45終了

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟2階 第8会議室

1)吉田 敬(科学哲学)

「社会の科学的研究を擁護する:ギアツの解釈人類学と進化心理学者による、その批判をめぐって」

 本発表では、クリフォード・ギアツの解釈人類学とそれに対する、進化心理学者の批判を吟味することで、社会の科学的研究を擁護する。初めに、以下のギアツの見解について検討する。すなわち、人類学と文芸批評の同一視、社会の科学は実証主義的モデルでのみ可能だとする想定、文化と心の関係についての見解、そして反・反相対主義である。その後に、ギアツの立場をいわゆる「標準社会科学モデル」の典型だとする、進化心理学者の批判を論じる。最後に、ギアツと進化心理学者の両者ともに、制度的文脈における人間行動の意図せざる帰結を説明するという、社会科学の目的を理解していないと主張する。なお、本発表は近刊の、"Defending scientific study of the social: Against Clifford Geertz (and his critics)", Philosophy of the Social Sciences 37 (3), 2007に基づくものである。

2)石川幹人(明治大学情報コミュニケーション学部/科学基礎論)

「超心理学の成功と失敗〜科学者社会を考える」

 20世紀初頭、当時確立されつつあった科学的方法論を取り入れて「心霊研究」が現代化し、「超心理学」が形成された。実験的超心理学の開祖であるJ・B・ラインが目指した目標のひとつは、科学的な手法で超能力の存在を明示することであった。21世紀を迎えた今日、研究方法や分析方法の高度化で、その目標はすでに達成されたと言ってよい。しかし超心理学は、ラインの期待に反して、学問分野としてのステータス確立に失敗している。その原因を分析すると、超心理学を含む科学や社会自体の問題につきあたる。
 つぎの「超心理学講座」を一覧したうえでご来場ください。
 http://www.kisc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/


第51回研究会

第51回研究会は人文死生学研究会(第5回)との合同研究会になります。

日時:2007/3/31(土)  1:30-5:45 

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟3階 第10会議室

(趣旨) かつて、死はタブーでしたが、近年は死生学の研究も盛んになっており、その多くは臨床死生学です。しかし、自分自身の死についての洞察が臨床死生学の基礎には必要と思われます。人文死生学研究会は、そうした一人称の死に焦点を当て、哲学、倫理学、宗教学、心理学、人類学、精神医学から宇宙論にまで及ぶ、学際的な思索と研究の場として発足しました。
 今回で5回目になりますが、これまでに「刹那滅」「輪廻転生」「死の非在論証」「人間原理」などがテーマとして取り上げられています。これらのテーマは、死に対する洞察が、哲学や科学において古くから問題にされている自我と時間の探求をおのずから要請することを明らかにしています。
 今回は、宗教人類学の佐藤壮広氏と、論理学者の三浦俊彦氏からの話題提供を予定しています。

(内容) 1 開会挨拶・趣旨説明 1時30分より
       渡辺恒夫(東邦大学・心理学、科学基礎論)
       前4回の経緯
       重久俊夫(西洋史、哲学)
     2 話題提供 「シャーマニズム、死、沖縄、平和学について」 2時15分より
       佐藤壮広(東邦大学・宗教人類学)
       発表と討論
     3 話題提供 「<私が今生きている>ことから何がわかるか〜終末論法へのさまざまな反論〜」
       4時より
       三浦俊彦(和洋女子大・論理学、分析哲学、形而上学)
       発表と討論

 なお、今回のテーマに関する討論について、以下のHPで読むことができます。
 http://homepage1.nifty.com/t-watanabe/correspondence2.htm
 


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