「心の科学の基礎論」研究会

2006年の活動履歴


第50回研究会

日時:2006/10/14(土)  1:30-5:30 

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟3階 第10会議室

1)永岑光恵(国立精神・神経センター精神保健研究所/精神生理学)

「嘘・だましの脳科学」

 嘘・だましは生物学、心理学、社会学、精神医学、犯罪学など、多岐にわたる学問領域において取り上げられるテーマであり、様々な観点から研究が行われてきた。そして、近年の目覚しいテクノロジーの進展により、生きている脳の機能を理解することが容易になったため、ここ数年間は、嘘やだましに関する脳科学研究が精力的に行われている。特に米国ではテロリスト対策等のため、従来のポリグラフに代わる新しい虚偽検出技術として機能的磁気共鳴断層画像(fMRI)に大きな期待が寄せられている。
 嘘・だましのfMRI研究による報告は、2001年のSpence らの論文 (Neuroreport, 12:2849-2853)に端を発し、その後、英国、米国を中心に数多くの研究がなされている。
 本発表では、従来の末梢神経系(皮膚電気活動、脈波)、中枢神経系(事象関連電位)の生理的指標を用いた虚偽検出の研究を概観し、fMRIが虚偽検出の指標として注目されるに至った経緯を紹介する。そして、現時点での知見をまとめるとともに、今後の嘘・だましの脳科学における課題を考察する。
 なお、この発表は『精神保健研究 第51号』掲載の「嘘・だましの脳科学−fMRI研究の知見から−」をもとにしたものである。

2)荒川直哉

「マインドサイト - イメージ・夢・妄想」

 この発表は、近日Colin McGinnの著作「Mindsight」の邦訳が出版されるのにちなみ、本の内容を紹介するものである。McGinnは現在米国で教鞭をとる分析哲学者であり、心の哲学に関する著作が多い。「Mindsight」は、従来(分析)哲学では十分に扱われてこなかった「想像力」を「できるだけ包括的に探究」することを試みている。本書では、想像力と知覚の比較からはじめ、「心の目(mind's eye)」、想像的視覚、想像の空間、想像の図像説などのトピックを扱う。本の中程では、夢について議論する。そこでは夢が知覚というより想像に近いこと、私たちが夢の中でのできごとを信じやすいといった現象について論じる。さらに、妄想や子供の想像力についての章の後、話題はより「認知的」なものになり、想像と信念や意味との関係について論じることとなる。


第49回研究会

日時:2006/7/22(土)  1:30-5:30 

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟4階 第5会議室

1)水本正晴(明治・東海・日本大学/哲学)

「『論考』独我論と自閉症児の世界」

『論考』独我論は「私は私の世界である」という独我論であると一般に言われるが、その解釈は、結局単に「我々は実はみな独我論者であるが、そう気付いていないだけ」というトリビアリティーに陥らないことが必要である。そこで『論考』独我論理解に役立つのが自閉症についての研究である。本発表は、他者の信念が理解できないとされる三歳児と自閉症児の対比を通し、自閉症児の世界と『論考』独我論の世界との構造的類似を指摘し、その分析が、『論考』独我論がいかなる意味での独我論であるかを明らかにすると同時に、発達心理学においても、幼児の「表象」概念獲得過程についてある仮説を提供すると論じる。

2)渡辺恒夫(東邦大学生命圏環境科学科/心理学)

「自明性の彼方へ:病理と独我論の統合的理解へ向けて」

 子どもの独我論的体験の調査をもとに、4象限からなる独我論的体験世界のモデルを構想した。4象限は、「他者の意識は存在しない」「世界は私の意識である」「世界は何者かの夢である」「私は何者かに見られている」と表現される。独我論的体験世界をカバーするキーワードは、哲学的独我論由来の「間主観性の破れ」ではなく、「類的自己の自明性の破れ」である。子どもの独我論的体験とは、類的自己として生きる常識的日常性の世界へ参入する際に生じた自明性の亀裂であり、自閉症は類的自己の不成立として理解される。他者のいない世界に生きる独我論者が、背後からの超越的視線に見つめられるという、入れ子細工世界症候群においても、類的自己の自明性の破れが著しい。自明性の彼方において、背後からの超越的視線の正体が明らかになるであろう。


第48回研究会

第48回研究会は人文死生学研究会(第4回)との合同研究会になります。

日時:2006/4/1(土)  1:30-5:45 

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟4階 第2会議室

(趣旨) かつて、死はタブーでしたが、近年は死生学の研究も盛んになっており、その多くは臨床死生学です。しかし、自分自身の死についての洞察が臨床死生学の基礎には必要と思われます。人文死生学研究会は、そうした一人称の死に焦点を当て、哲学、倫理学、宗教学、心理学、人類学、精神医学から宇宙論にまで及ぶ、学際的な思索と研究の場として発足しました。
 人文死生学研究会は、今回で4回目になりますが、これまでに「刹那滅」「輪廻転生」「死の非在論証」「人間原理」などがテーマとして取り上げられています。これらのテーマは、死に対する洞察が、哲学や科学において古くから問題にされている時間と自我の探求をおのずから要請することを明らかにしています。
 今回は、前回に引き続いて、論理学者の三浦俊彦氏からの話題提供を予定しています。

(内容) (1) 開会挨拶・趣旨説明 1時30分より
         渡辺恒夫 (東邦大学・心理学、科学基礎論)
     (2) 前3回の要約 1時45分より 重久俊夫 (西洋史、哲学)
         1 インド仏教における刹那滅 (谷貞志発表より)
         2 独我論と輪廻転生     (渡辺恒夫発表より)
         3 死の非在論証       (重久俊夫発表より)
         4 多宇宙論と人間原理    (三浦俊彦発表より)
         5 質疑応答
     (3) 話題提供 「輪廻転生と進化論・人間原理・主観確率論」
         三浦俊彦 (和洋女子大学・論理学、分析哲学、形而上学)
     (4) 総合討論 4時30分〜5時45分

(参加資格) 趣旨に関心のある方はどなたでも参加できます。
       申し込みは特に必要ありません。

 なお、今回のテーマに関する討論について、以下のHPで読むことができます。
 http://homepage1.nifty.com/t-watanabe/correspondence2.htm
 
 人文死生学研究会については以下のHPを参照してください。
 http://homepage1.nifty.com/t-watanabe/academic_meeting_4.htm


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