書評:「ネットワーク社会の文化と法」夏井高人著、日本評論社

明治大学新聞 (1997) に掲載

規制緩和が繰り返し叫ばれる今日、企業経営、経済政策にはじまり、生活様式、文化風土にいたるまで、あらゆるものがボーダレス、グローバル化の波に洗われている。まさに大変革の時代が到来した。その変革において、はからずも津波のような役割を果たすこととなったのは、情報ネットワークである。もはやこの勢いは止められない。望むと望まざるとにかかわらず、我々は潮に乗る術を身につけなくてはならなくなった。

本書は、迫り来る情報ネットワークのなかで生き抜くためのヒントにあふれている。情報社会の歴史系譜、現状解析、将来展望とどれも目が離せない。また、本書自身が、旧来の出版の形態から大きく一歩踏み出した試みでもある。なんと三百五十ものホームページアドレスが参照されており、関連情報がすぐにインターネットで調査可能となっている。

本書が提示する重要な視点のひとつは、法である。情報ネットワークは国家主権でさえも、流し去ってしまう危険性をはらんでいる。来るべき事態を先取りした法の整備、それは大海原に繰り出す箱船を準備するという意義をもつのだろう。そうした法を語る語り口には、著者が判事時代に培った、社会に対する透徹した感性が息づいている。



書評:辻本篤ほか著「危機管理99」(春風社、1800円)

明治大学新聞 (2006) に掲載

大規模地震、環境汚染、テロリズム、凶悪犯罪、機密漏洩など、日夜マスメディアは身近にせまる危機の可能性をかきたてる。それらの可能性のいくつかは、いつかどこかで可能性から現実へと昇格する。それほど、私たちの身の回りにはリスクがいっぱいである。しかし、ひとつひとつに対処を始めたら、不安は底なしであり、日常生活の明るさは不安のどす黒さで覆い隠されてしまう。そこで私たちは「判断停止」をするのである。いつかどこかで起きるのだろうが、いまここでは起きないだろう、と。

いや、不安は抑圧してはならない。向き合って解消すべきである。本書は、リスク不安を適度に解消する虎の巻である。「自然災害」、「日常生活」、「政府・企業」に分けて、それぞれの危機管理を具体的な99の事例にもとづきながら、対策のノウハウを二、三ページで伝授する。「根本的こころがまえ」、「実施すべき事項」という項目で端的にまとめられているので、これくらいなら対処できるだろうと「判断停止」を越えて一歩先に進めるのである。著者らの長年の教育経験から編まれた本書は、リスク・マネジメントのマインドがおのずと伝わってくる良書である。


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明治大学 石川幹人