かつての弁護士は、司法修習の後、小規模法律事務所(親弁事務所)か経費共同事務所に勤務弁護士(イソ弁)として所属し、そこで5年~10年修業し、その後独立して個人事務所を持つというキャリア・パタンが一般的でした。当時は、単独あるいは数名の弁護士の小規模事務所が東京などの大都市においても大部分であり、大規模事務所(ほぼ東京に一極集中)でも,20名から30名程度の規模でした。 しかし、過去20年の間に、こうした法律事務所の光景は大きく変化して来ています。その変化に以下の4つを指摘できます。
第一に、企業法務・金融法務を中心に扱う大規模法律事務所の出現であり、より一般的にいえば、法律事務所の規模の拡大です。こうした規模拡大の傾向は、これからも続くと予想されます。
第二に、法律業務の専門化傾向です。大中の法律事務所の内部で、金融、倒産、知財,訴訟などの業務領域が細かく分かれ、専門の弁護士が専従するようになっています。個人を主たる依頼者とする事務所においても、労働、家事、刑事、交通事故などを多かれ少なかれ専門的に扱うようになってきています。こうした専門化傾向も今後継続するでしょう。
第三に、テレビやインターネット等による宣伝で、(紹介を介さずに)顧客を直接受け入れる法律事務所が出現しています。これは、依頼者との関係性や法律業務遂行の仕方などの変化をもたらすかもしれません。
第四に、組織内弁護士の急速な増大があります。企業内弁護士が2千人近くにまでなり、公務員弁護士も200人を数えるに至っています(任期付き含む)。企業や官公庁に勤務する未登録有資格者も存在します。組織内弁護士はこれからも増加していくでしょう。
以上の変化は,弁護士の増加のみならず、弁護士への社会的ニーズの多様化にも対応したものでしょう。逆に上記の変化は、弁護士に対する社会的ニーズの側の多角化・多面化をもたらし,そこにはシナジー的な相互作用が生じると期待されます.こうして、弁護士の社会的使命は、訴訟代理・弁護という伝統的なものから、紛争予防、交渉(私的な秩序形成)、規範形成(社会秩序形成)などへと拡大してゆくと期待されます。
本研究の第一の目的は、近年のこうした傾向を法律業務の多様化,弁護士の社会的使命の拡張ととらえ、その現状をまず把握し、これからの弁護士の進むべき道の模索のための基礎資料とすることです。第二に、法律業務の多様化や組織内弁護士の急増の背景と経緯を跡付け、上記の4つの変化の背後にある社会的・制度的な力を同定し、プロフェッションとしての弁護士の進むべき方向を明らかにすることです。
研究チーム | 太田勝造(東京大学)、ダニエル・H・フット(東京大学)、杉野勇(お茶の水女子大学)、石田京子(早稲田大学)、飯考行(専修大学)、森大輔(熊本大学)、村山眞維(代表・明治大学) |
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