2013年盛夏、新たな時代を迎えた明治大学
― 研究力を前面に出したグローバル・スタンダードへのパラダイム・シフト ―


  2013年春、明治大学は、4年連続志願者数日本一の栄誉に輝きました。そして、興味深いことには、この結果に対する反応が、昨年までとは明らかに違って来たということです。4年前、初めて日本一になったとき、世間は無論のこと、受験界に、より深く関わっていた人々にとっても意外な偶発的現象として、次の年には元に戻るといった受け止め方をしていた人々が多かったように思います。2位との差が185名という僅差もあって、皮肉とユーモアと、少々の驚きをもって受け止められたというのが現実ではなかったかと思います。そして、その原因を経済不況に求めて、記念受験が減った、受験対象校の絞り込みがしっかりと行われるようになったといった、言わば「不況原因説」ともいうべき受験評論家の分析で総括されていたように思います。それに対して、今世紀に入って急速に進められ始めていた明治大学の改革への努力が、その背景にあることを触れておかねばならないということを注記したことを憶えています。

 志願者数日本一は、その後引き続き今日に至っています。4年前の日本一は、単なる偶発的な一時的現象ではなく、時代の変化を予兆する潮の流れの変化の表われに他ならなかったのです。3年目の昨年あたりから、そのことに気付き始めた意見、評論が出始めました。単なる経済不況といった理由からだけではなく、グローバル社会という新たな時代の潮流に、如何に対処すべきかという難題に直面することとなった大学世界の大きなうねりに、誘発されていることに気付き始めたのです。
 
  そのことは、例年、リクルート進学総研が行っている大学ブランドランキング「進学ブランド力調査2013」において、明治大学が5年連続1位、別けても男・女、文系・理系の全ての部門で第1位にランクされたという今回の集計を踏まえて分析を行った結果、「長期にわたる改革」ここにポイントがあるという結論に至ったことにも表れています。マスコミ、インターネット等で広く報道されましたから、ご存じの方も多いかと思います。もはや「不況原因説」は、まったく影を潜めました。外因的な一時的現象ではなく、改革という内部からの自助努力なしには、意味のある現実的成果、まして持続的成果は期待できないことを明らかに認めた分析、評論でした。当然のことと言わねばなりません。過去の評判に胡坐をかいていて引き続き評価が得られるといった甘い状況は、グローバル時代の社会には、存在しないことを肝に銘じなくてはなりません。

 明治大学は、20世紀の後半期、長きにわたって冬眠する時期を経て来ました。それを揺り動かし覚醒させる機会となったのが、他ならぬ1995年1月17日、明治大学創立記念日のその日に起きた巨大地震、阪神・淡路大震災でした。懸案となっていた老朽化した記念館の改築、建設が急務であることを、改めて悟らされました。それまでの巨大地震予測は、その殆どが関東広域圏に絞られたものでした。明治大学の成長、発展に多大な貢献を成してきた記念館も、関東大震災の被災の中から明大人一丸となって建設されたという巨大地震を契機としたものであることは、よく知られているところです。それだけに間近にせまっていると予測されていた巨大地震の発生。耐震性に多くの問題を抱えた記念館は、明治大学の将来に関わる大きな課題として残されていたのです。そうした中、創立記念日のその日に、巨大地震が、多くの予想とは異なって関西地域に起こったのです。

 それを機に覚醒した明治大学は、リバティタワーの建設に踏み切り、その竣工を契機として山積した難題に取り組み、様々な改革を推し進める時代を迎えることとなりました。時は21世紀の始まり、それは、同時に明治大学の第三還暦期の始まりでもありました。そして、2013年、明治大学は創立130周年を期して、「世界に冠たる明治大学」への飛躍を宣言して旗幟を鮮明に致しました。後には戻れない、社会への誓約宣言です。それから間もない3月11日、巨大地震が東日本一帯を襲いました。またしても、巨大地震との遭遇です。巨大地震と明治大学の成長、発展。どうやら、この一致は単なる偶然ではなさそうです。明治大学は、正に日本列島の地殻変動と軌を一にして進んで来ているということ、そして、そのことは、ひとり明治大学だけのことではなく、日本社会全体の動きに大きく連動しているということ、このことに大きな意味があるということ、そう考えざるを得なくなって来たのです。

 明治大学、巨大地震、日本の動き、この3者の連動性は、明治大学が如何にあるべきかの未来設計に、大きな社会的責務があることを強く示唆しています。単に一大学の問題としてあるのではないということ、明治大学の地位は、正にそこにあるということ、このことです。明治大学がグローバル社会にフィールドを移したということは、取りも直さず、日本社会自身がその起点に立ったということに他ならないのです。明治大学は、日本における正に中核大学(Core University)として、研究・教育という場で日本の未来を予見させる地位にある大学と言って、まず、間違いありません。このことに対する自覚を持つことが、明治大学の進むべき方向性を明らかにし、また、21世紀という人類史上、空前の発展紀に果たすべき明治大学の役割が、明示されて来ることにもなります。真に、身震いさえさせられる役割が明治大学に与えられようとしている、歴史的転換期にあると言わねばなりません。

 大学は、その発生史を遡るまでもなく、人類の未来に敢然と立ち向かう文明の最前線にある社会的使命を負った存在としてあります。それは、単なる少数の選ばれた人々の特権的な装衣の場としてあるのではなく、多種多様な多くの人々に門戸を開放した開かれた存在としてあること、これが、今日、求められる真の大学像であります。それが、明治大学が正に標榜する大学像そのものであることは、改めて指摘するまでもありません。

   Core University とは、胎動する次代へのうねりを先取し、社会に向けて大きく展望を切り拓く先進的な役割、行動力を持った大学でなければなりません。しかも、それは、生命の多様性の中に保障される人類のサステナビリティを基礎にした人間社会の在り方に、強力に示唆を与える提言力を持った存在でなければなりません。明治大学は、正にそのCore Universityとしての能力を生かし役割を果たすべく、今、急速に舵をとり始めています。

  明治大学は、創立130周年の2011年、その足場を大きく世界に求める宣言をし、「世界に冠たる大学」へと飛躍すべく、数々の施策を発表致しました。その中の幾つかは、既に先行的に進められて来ており、極めて実効性の高い内容を持つものでありました。以後、それらが、着実に実施に移されていることは、周知の通りです。国際社会から、更に地球という惑星を強く意識したグローバル社会の時代における、明治大学の未来を見すえた果敢な宣言であり、行動であります。

  重要なことは、グローバル社会が単に人間社会のみを対象としているのではなく、自然界における生命の多様性を理解し、そこにこそ人類生存のサステナビリティの基礎があることを強く意識していることです。このことは、Intelligent Human Societyである大学にあっても、何ら変わるものではありません。明治大学は、広く知られているように我が国に数多ある大学の中でも、この多様性において屈指の大学であり、諸施策も常にそのことを念頭に置いて進められて来ています。言い換えれば、明治大学にとって、グローバル社会こそが真にその力を発揮させる場として相応しく、これまで潜在化していた能力を大きく開花させるフィールドに他なりません。多様な能力を持った人々の力を十二分に生かすには、どうしても広い空間を必要とします。そこにこそ、「権利・自由、独立・自治」の明治大学精神が、21世紀人間社会のあるべき姿を描く世界共通のマニフェストとして、共有化される可能性があると言えましょう。

  人間社会は、3千万種を超えるこの地球上に住む多様な生命体の一員であるという認識に立ったグローバル社会にあって、「人類社会」という新たな社会認識の必要性に迫られる時代になりました。この地球環境を強く意識したグローバル社会における大学とは、人類社会のサステナビリティへの途を大きく切り拓く役割を担った存在であるということ、ここに最大の使命があります。そのためには、常に最先端の研究力を持った大学でなければなりません。「知」の最前線における情報が、グローバル時代に生きる人類のサステナビリティへの可能性を明らかにするパイロットであることは間違いありません。大学における教育は、それによって導かれた、より高度な先進性を持ったものでなければなりません。明治大学は、その方向に向けて急角度に舵を切り始めています。「世界に冠たる大学」への途を、大きく一歩踏み出そうとしている印象を強く感じさせるものです。

  「21世紀は、明治大学の世紀」とは、これまでも度々触れて来たところです。既に明らかなことと思いますが、それは、明治大学がひとり頂点に立ち、世界に君臨するといったことを目指しているものではありません。人類のサステナビリティ、その未来を考えるとき、「明治大学精神」、そして多様で有能な多くの人材を擁する明治大学の在り方こそが、21世紀という人類史上、空前の発展紀を大きく開花させ導いて行くには、どうしても必要な条件に他ならないからです。

  近代日本の黎明期、自主・独立・自治の旗印を掲げて立った明治大学の創立者たちの意志は、いま正に大きく花開きつつあります。創立者の意志は、50余万明大人による継承と行動によって、人類の未来に大きく寄与・貢献する時代を迎えたのです。21世紀に入ってからの明治大学の動きは、自らの使命を自覚し、着実に、かつ自信をもって「一歩前へ」踏み出す行動となって現われています。「前へ」このモットーは、いまや明治大学のキャンパスを超えて日本全体の、更には未来を見すえた人類社会全体の行動指針として、共有化されようとしています。その意味でも、21世紀は、まさしく、明治大学の行動、成長・発展と共にあると言わなければなりません。

  志願者数日本一、そして志願したい大学ランキング1位ということが、何年にもわたって続いているということも、これからの時代を担う若人が、意識、無意識のうちに、そのことを感知し選択していることの表われと言ってよいのかも知れません。重要なことは、その気持ちが明治大学の行動を更に大きく支え、強力なエネルギーとなっているということです。そして、50余万明大人の進む一歩一歩が、その方向に向かって大きくベクトル化されつつあるということ、このことの重要性を自覚し、真摯・誠実に弛まぬ努力を積み重ねていくことが強く期待されているのです。改めて、明治大学の役割と責任の重さを感じざるを得ません。

 1993年春、13名のゼミ員をもって始まった生田ゼミナールは、その発足当初から「21世紀は、明治大学の世紀」を掲げ、世界に冠たる明治大学を目指すべく進んで参りました。そして、いま正に、明治大学は大きくその方向性をもって、グローバル社会に飛翔すべく羽ばたきを始めました。生田ゼミ200名OB・OG皆さんの意志と行動は、その先陣を切って進むフロンティア精神に充ち溢れた先導者として、大きな役割を担っていると言えましょう。皆さんが、それぞれの人生を時間を掛けて大きく豊かに育て上げていく、その一歩一歩が、その使命を実現する行動に他なりません。人類史上、空前の発展紀である21世紀に人生の活躍期を過ごすことの出来る稀有の幸運を十二分に生かして、人生を大きく成功に導いて行かれることを切に願って已みません。
                                    
                                          平成25年(2013年)8月15日(木)
                                明治大学生田ゼミナールOB・OG会 生 田 保 夫

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