指導教授挨拶

 明治大学商学部交通論・生田ゼミナールは、1993年4月、第一期生13名のゼミ員をもって始まりました。交通学という課題に共通の興味を持っ集まったこれらの人々の活動が総ての始まりであります。恩師、麻生平八郎先生の門下、私どもの大先輩であります清水義汎先生からゼミ開設のお話しを頂いたとき、お受けするとすれば、どのようなゼミを目標にすべきかを考えました。単に交通学の専門的研究というためだけでしたら、明治大学には多くの有能な教授陣がいらして、敢えて遠方より来明して席をけがす必要もありません。熟考のすえ、一つの成案を得ました。

それは単に交通論ゼミという認識ではなく、明治大学の中の一つのゼミとして、より広く大きな展望を持ったゼミナールとして位置づけることでした。端的に言えば、明治大学が世界に冠たる大学に成長するための一助を担うということ、より明確には二十一世紀の第2四半期の終わりまでに世界トップの大学になるための核になること、これであります。半世紀を超える遠大な展望であります。しかし、世界に万余の大学が存在する中で、その役割を担うためには、幾つかの達成しなければならない課題があります。非常に難しい事のように見えます。が、実を言えば、既にその中の幾つかは明治大学自身の位置と歴史がその条件を充たしているということ、そして、その礎の上に強力な意志と、努力を弛まず続けていけば、必ずや暁光を見出せるに違いないと確信するに至ったのであります。

第一には、明治大学の建っている位置です。ご存知のように、明治大学はお茶の水という稀有の学問的好条件を備えた特別な場所に位置しています。無慮一千万余の書籍が常時手にとれ、必要とあれば取得することの出来る多数の書店の存在、そして更には明治大学自身に備えられた二百万冊に満たんとする膨大な量の高度な書籍群、これらは他に例を見ない文化的地域環境であります。

第二に、明治大学が位置しているお茶の水という場所が、歴史的にみて江戸時代以来、実に四百年になろうとする学問、研究の場として連綿として続いてきた所だということです。それは、この場所が学問、研究の場として極めて優れた場であることを歴史的に立証していることに他なりません。同じ場所にこうしたものが何百年にもわたって続いているということは、並大抵のことではありません。世界都市、東京の真ん中で変わることなくこの地位を維持し続けているということは、この地の顕著な特異性と言わなければなりません。

第三に、明治大学は、1881年(明治14年)1月17日に産声をあげました。すでに一世紀を遥かに超える歴史を持っています。その間に数十万人にのぼる人材を世に送り出してきました。私達のよく知るところであります。しかも、それらの人々は真摯、誠実、努力型の人々が大勢をしめています。正に、日本の良心を支える人脈と人材であると言って過言でありません。明治大学人の端的な特色であると共に、私達の最も誇りとするところであります。

第四に、明治大学は日本という国の動きと強く連動しながら発展してきた大学だということであります。明治大学は決して安易、軽躁の大学ではありません。時には、著しく鈍重にさえ見えるかもしれません。しかし、人類の歴史に大きく貢献する事績をなすということは、あたかも地球自身の動きの如く、静かでゆっくりではありますが、弛まぬ努力と強い意志の持続によってでしか達成し得ぬところであります。

第五に、明治大学は、その創立の記念日があの関西大地震が起きた日にあたり、また先の記念館が関東大地震を機に建てられたものであることは周知のとおりであります。その記念館は一昨年の1月17日,すなわち本学の創立記念日の日に幕を閉じたのであります。そして、その同じ場所にいま再び、二十一世紀に大きく羽ばたく不死鳥のように、新たな記念館がその巨大な姿を現わしたのであります。それはいったい何を意味するのでありましょうか。正しく、明治大学の世紀を超えた歴史の歩みは、日本列島の地殻変動にシンクロナイズした変遷を示してきたということであります。この国土に住む私達自身がそうであるように、大学自身もこの地球物理学的条件の下に大きく規定された存在であることは言うまでもありません。そして、明治大学の動きは正にその動きを象徴的に表しているのであります。言い換えれば、明治大学は日本の地球物理学的な動きに連動して、その真実の姿を反映する核心の学府であると言うことができます。その意味で、明治大学の動きこそは日本の動きを象徴しているということになりましょう。この事実を考えますとき、私達は明治大学という存在の、日本社会、否、人類社会において果たすべき役割を改めて自覚せざるを得ません。明治大学はその自覚を持って人類社会の発展に大きく貢献する責務を持つと共に、その役割を果たす能力と権利を有した大学であると確信するものであります。

二十一世紀こそは、近代日本の幕開けとなった明治という時代に逸早く、自主、独立、自治の人権思想を標榜して立った明治大学の建学の精神が大きく開花する世紀であります。先に掲げた「明治大学精神」と「明治大学綱領」とは、正にその建学の精神に則るものであります。生田ゼミナールに所属する各員は、この「精神」と「綱領」の下に、その目標を実現すべく単に交通論ゼミナールの一員としての意識だけではなく、広く明治大学全体の、そして更には人類社会全体の発展に大きく寄与する一員としての自覚をもって、各員の人生を展望し研鑚に励むことが期待されているのであります。
                      

1998年(平成10年)11月5日 記

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