研究型大学としての大学の社会的役割
― 世界の明治大学への飛躍 ―


 高度高等教育機関としての役割を担う大学は、人間社会の持続的発展を可能にする在り方を切り開くための潜在能力を向上させる使命を負っています。この使命を達成するための条件は、研究力の向上を通じて、その可能性の先端領域を如何にして拡げて行くかの問いに応えるべき未知の課題に対処する能力の如何に懸かっています。

 明治大学は、いま着実に高度高等教育機関としての自律能力を促進すべく、正に研究推進型の大学に大きく変貌しようとしています。それは、グローバル社会に対応した先進性を持続的に進めていくための必須の条件を整えつつあることを意味しています。その意味で、明治大学は学問の府としてその姿を大きく変えようとしており、正にグローバル社会に対応した社会的存在として飛躍的な評価向上が期待されています。評価の視点が、地球規模の球体社会を基礎とするダイナミックで流動的な存在として認識されなければならないという難しい課題に直面しているということに他なりません。

 明治大学は、いま、そのことを強く意識して強力なモチベーションをもって、2050年までに世界に冠たる大学へと革新するべく、数々の施策を実行に移しつつあります。経営・教学一体となったこの動きは、大学という特異な事業体を円滑に進めていく上で、極めて重要な動きであると言わなければなりません。権利・自由、独立・自治、個を強くする大学、そして「更に、もう一歩前へ !」、進取の気象を持った明治大学は、こうしたスローガンの下に、時代を先取りして広く人間社会に貢献しようとする創立以来の伝統があります。この動きこそは、間違いなく日本を民主主義社会として大きく前進させる行動に他なりません。多様な人材が集まる明治大学は、拙速に陥ることなく時間をかけて、その動きを着実に進めながら、21世紀の第二四半期の終わり、2050年を目指して世界に冠たる大学に発展するべく大きく舵を取り始めました。明治大学の歴史上、真に記念すべき時代に入ったと言わざるを得ません。「21世紀は、明治大学の世紀」が、正に動き始めたのです。

 明治大学は、潜在力に満ちた大学です。その力を発揮させる課題と場が与えられた時、その力は大きく開花して、明治大学の人間社会に対する使命を間違いなく果たす機会を捉えることになります。21世紀こそは、正に、そのことが現実化する世紀と言って間違いありません。それは、良い意味で、日本型世界史を築く機会であると言っても差し支えありません。当然、それは、一方では極めてシビアな評価を受ける行動でもあります。その意味で、その行動は、日本型がグローバル社会に適合的に作用し得る可能性が試されていくことでもあります。むろん、日本型が、人間社会全体を支配的に統禦する社会を目指すということであってはなりません。日本という場で培われた、良い意味でのグローバル社会適合型の行動を志向するという意味でなければならないのです。非常に難しい課題への挑戦ということになります。「権利・自由、独立・自治」のスローガンは、ひとり明治大学、日本固有の叫び声ではないからです。
 その意味で、明治大学の多様・多彩な人材の集うという特長は、極めて重要な意味を持っています。それは、単に異なるという側面だけが強調されるべきではなく、一定の共通した方向性があるということを認識しておく必要があります。そこにこそ人類が、人間社会という歴史に培われた相対性が無秩序な存在としてある訳ではないということを、理解しておく必要があるのです。交通手段の発達によって、多くの人々が共通の路を歩き、行動することを通じて長い間に、自ずから共通性という重要な特性を学習することが出来るからです。グローバル社会というのは、正にこの路を通じて実現されていく交通過程の集積の上に実現する社会に他ならないのです。

 交通過程が、「人間社会において、個別主体が、それぞれの価値基準に基づいて、人・物・情報の場所的移動を通じ価値実現を図る実体過程」としてあることを想起すれば、このことは、極めて判然とした事実であることが理解されます。その意味で、交通システムの発達こそが、人間社会の広域化、そしてグローバル社会への戦略的基礎としてあることが解ります。「人・物・情報の場所的移動」という過程が地域間社会の形成という普遍性を構築する歴史を創って来たことは、明確な事実です。この側面を捉えれば、交通システムの発達こそが、人間社会の発展の現実的姿としてあることが判ります。ここに、交通学が、人間社会の発展に大きな役割を担うものとしての理論体系を与えることになります。改めて、「交通」の重要性が強く認識されるところです。

 明治大学は、日本社会の中心に立地するという、大学として極めて特異な地理的位置を占めています。このことは、人間社会のグローバル化という広域社会形成上、多様な要素を導入しなければならないという要請に応える上で重要な意味を持っています。日本社会が明治以来、東洋社会と西欧社会の融合の上に持続的な発展を遂げて来たことを考えれば、そこが学問の中心地として歴史的に担保された場としてあることは、極めて重要な意味を持っているのです。立地が学問の普遍性を保証する場であるということは、稀有な条件であることを改めて認識する必要があります。交通条件において最も優位な条件を備えた立地、それこそが、明治大学が研究・教育のフィールドを求める上で、最適の条件にあることを立証しているのです。「場の価値」、それが価値法則の基礎としてあることを、改めて認識する必要性があります。この「場の価値」における優位性こそが、「21世紀が、明治大学の世紀」であることを強く保証していると言えましょう。
 加えて、明治大学、140余年の歴史は、正にその固有の能力を養い培う上で好個の年月であったと言えましょう。そして、新たな挑戦の経験を経て、明治大学は、世界のフィールドに行動の場を拡げて行くことになります。人類の発展、人間社会の持続的成長には、こうした役割を担い得る主体者の成長が不可欠なのです。その意味で、21世紀の第二四半期突入を目前にする今、明治大学がその視野を世界に展じようとしていることは、極めて意義深いものがあります。正に、交通条件の優位性がその行動を強く支援していると言えましょう。改めて言えば、人類の生存、人間社会の諸活動とは、一連の交通過程そのものに他ならず、交通学の諸理論は、交通主体と交通対象の相互関係の中に新たな価値体系を構築する論理を明らかにしたものなのです。

 人類の進化の過程で、人間社会を広域化することによって人間相互のネットワークをより強固にする手段として、交通システムの進展が欠くべからざる基礎条件として存在していることが判ります。そして、明治大学こそは、この交通条件を最大限に生かせる立地の大学として、近代日本社会で百数十年に渡って培って来た高度高等学問の府としての在り方を世界に拡げるべく務めていかなければなりません。それが、21世紀、明治大学の世紀に本学に与えられた使命であり、また、それが可能な大学として選ばれた誇りある大学であることを自覚しなければなりません。

 近代日本の幕開け、明治という時代に、「個人の権利を尊重し、自由な社会を実現するために、日本の近代市民社会を担う聡明な若者を育てていくこと」を目指した明治大学の前身、明治法律学校の創設こそは、いま百数十年の年月を経て、世界にその帆を向けて問う時代に なったのです。西欧の思想が、日本という四季に恵まれた温和な社会で醸成され、新たな在り方をもってグローバル社会に役割を果たす時代、それこそが、この世紀が明治大学の世紀であることの証と言わなければなりません。それは、新たな困難な道程となることを覚悟しなければなりません。が、明治大学に与えられた使命として、人間社会の発展に貢献する機会を与えられたと自覚し、敢然と前に進まねばなりません。
 「更に、もう一歩前へ!」 Furthermore、one more Step! 前進しなければなりません。困難な使命は、それを果たせる者にしか、機会として与えられることはありません。正に「幸運の使命」でもあるのです。改めて、真摯な態度で臨まなければなりません。この機会を経てこそ、明治大学は、真に「21世紀の大学」としてグローバル社会に認知されることになるのです。

 そして、この使命は、皆さん方一人ひとりの人生を大きく豊かに育て上げることによって達成されるのです。それが「幸運の使命」であることを深く信じて、前に進んで下さい。高き頂を越えた向こう側には、広々とした幸野が広がっています。そこにこそ、「権利・自由、独立・自治」の明治大学の精神がこだまする、平和な世界が繰り広げられているに違いありません。 
2023年(令和5年)12月2日(土)
 明治大学生田ゼミナールOB・OG会 生 田 保 夫

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