北東アジアの言語
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「私」 | 「目」 | 「太陽」 | ||
朝鮮(韓国)語(ソウル方言) | cho(a) na |
nun | he(a) | |
日本語(関東方言) | [w]atashi | me | hi | |
日本語(関西方言) | 現代 | wa[sh]i / [w]ate | me[e] | hi[i] |
古代 | [w]are | ma | hi | |
奄美語(名瀬方言) | wan | mi | tida | |
沖縄語(首里方言) | 現代 | wan | mii | tiida |
近世 | [w]an | mii | teta | |
宮古語(平良方言) | ban | mii | tita | |
八重山語(石垣方言) | banu | mii | tida | |
与那国語 | anu | mi | tidan | |
アイヌ語(北海道方言) | k[u]ani | kerup | chup |
北東アジアの4つの孤独語はアルタイ系か? ■北東アジアには、四つの孤独語(孤立語)language isolate、朝鮮(チョソン)(韓国)語、日本語、アイヌ語、ニヴヒ(ギリヤーク)語が隣接して分布している。日本語は世界の孤独語の中でももっとも話者人口が多い(1億3千万)。琉球諸語を含む日本語を語族とみなし単一の言語とみなさないなら韓国・朝鮮語がもっとも話者人口が多い(5千万)孤独語となる。(次に話者人口の多い孤独語は西欧のバスク語で約50万。)これほどの話者人口を持つ言語が系統不詳でかつ隣接しているのは世界的にみても珍しい。 ■日本語は朝鮮語など他の孤独語に比べて方言のバリエーションが大きいので、単一の言語ではなく日本・琉球語族というひとつの語族とする見方もある。Ethnologueによればこの語族に12の言語(日本語、喜界語、北奄美語、南奄美語、徳之島語、沖永良部語、与論語、国頭語、中央沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語)が含まれるとしているが、琉球の諸言語はそれほど変異に富んでいるわけではない(表)ので、これは細かく分けすぎにしても、日本・琉球語族は、日本語、奄美・沖縄語(奄美語、沖縄語)、先島語(宮古語、八重山語、与那国語)の3〜6言語には分類できる。日本・琉球語族の言語学的「重心」は南部の琉球列島に偏っている。これは、日本の古い文化が琉球に残されていることを意味する。 ■朝鮮語、日本語・琉球語、アイヌ語、ギリヤーク語は、構文はSOVで修飾語が被修飾語の前にくる膠着語であるなどの共通性を持っているが、互いの言語学的な類縁関係は証明されていない。またこの4言語、とくに朝鮮語は、同じ文法的特徴を持つアルタイ諸語との類縁性が有力視されているが、やはり言語学的に証明されるには至っていない。 オーストロネシア語族との関係 ■いっぽう、アイヌ語や琉球語が、それに先立つ縄文語の特徴を残しており、その縄文語をオーストロネシア系に関連づける考えもあるが、これもまた言語学的に証明されてはいない。たとえば、沖縄語のtiida(太陽)については、「照る」に由来する、「天道」という中国語起源、という説のほかに、台湾先住民アミ語のtsidar(太陽)と同語源という説がある。また古代日本語のma(目)は原オーストロネシア語のmata(目)に由来するなどの説もあるが、特定の語の表面的な対応だけをみるのでは、言語学的に系統関係を論じるには不十分である。 ■ただし、たとえば縄文文化とオーストロネシア文化の系統関係が証明されたとしても、それが即、縄文文化の起源が太平洋諸島にあることは意味しない。「日本人はどこから来たか」的な議論はつねに「ルーツ」を外部に求めることを暗黙の前提にしているが、その前提に根拠はない。逆に、オーストロネシア文化の起源が縄文文化にあると考えることも論理的には可能である。(もちろん最初の人間はアフリカから来たに違いないのだが。)オーストロネシア語族の言語学的「重心」は台湾にあるから、オーストロネシア文化の発生地は台湾の近辺である可能性が高い。 北東アジアの言語と政治 ■現在、北東アジア地域は四つの国家、日本、韓国、北朝鮮、ロシアによって分割されている。アイヌはがんらい文字も国家も持たない狩猟採集民だったが、中世以降日本への同化が大規模に進められ、アイヌ語の話者人口は消滅寸前である。サハリン(樺太)とクリル(千島)列島は、近代史の中で日本とロシアとの間を行き来したが、現在は事実上ロシア領になっている。 ■琉球は明の支配下にある独立国だったが、近代に日本に併合され、日本語の関東方言が標準語として強制された。沖縄以南の琉球は第二次大戦後アメリカの統治下にあったが、1975年に沖縄県として日本の一部に復帰した。現在、琉球ではクレオール化した関東日本語、ウチナーヤマトゥグチ(沖縄大和口)が事実上の共通語になっている。(ヤマトは琉球から見た日本のこと、クチは言語をあらわす。) ■日本は1910年に朝鮮半島を併合し、日本語教育を行ったが、第二次大戦後は共産圏の北朝鮮とアメリカの後押しを受けた韓国に分断されて独立した。日本国内の朝鮮(韓国)語の話者人口は、約60万人と推定されているが、その多くは20世紀の前半、日本に移住して(させられて)来た人々である。 (2005-10-24 修正/文:蛭川立) |
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