2017年3月19日本農芸化学会(京都女子大)

油滴サイズの異なるフラワーペーストの口どけ食感の解析〜繰り返し圧縮における物性・構造の変化〜

○山下智史1、河原田啓希2、古川周平2、中村卓1(1明治大農・農化、2オリエンタル酵母工業 食品研究所)

【目的】

フラワーペーストとは、澱粉を主原料とし、油脂・砂糖・粉乳等を混合、乳化、加熱することによって作製されるクリームパンなどのフィリングである。また、互いに混じり合わない水と油を含んでおり、その乳化処理により異なる油滴サイズのo/wエマルションを形成している。一般的に、油滴サイズは食感に影響を及ぼし、油滴サイズが大きいほどその口どけは良いことが知られている。さらに、食感を構成する物性的・構造的要素は咀嚼過程(第一咀嚼、第二咀嚼以降、嚥下) の時間軸に沿って変化し、この要素の変化の組み合わせがおいしさを決定する。特に口どけ食感は第二咀嚼以降の物性的な広がりやすさと破壊構造が重要であり、これらの要素における唾液(水)の影響は大きい。そこで、本研究では油滴サイズの異なるフラワーペーストの口どけ食感の差を、水存在下での繰り返し圧縮試験による物性・構造の変化から明らかにすることを目的とした。

【方法】

油滴サイズの異なるフラワーペーストを作製するため、2種類の乳化処理を行った。真空乳化機を用いて攪拌乳化(12,000 rpm)を行い、フラワーペーストを作製したものを‘E:乳化’ 攪拌乳化後、高圧ホモジナイザーを用いて高圧乳化(10 MPa)を行ったものを‘H:高圧’とした。E,Hについて、物性測定として動的粘弾性試験、繰り返し圧縮加算試験 (口どけ食感解析)を行った。口どけ食感試験は水の存在下で行い、試験時の破壊の様子をデジタルカメラで撮影した。また、各種顕微鏡を用いて微細構造を観察した。

【結果】

共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)観察の結果、油滴サイズはEが約10 μm、Hは約1 μmであり、油滴サイズの異なるフラワーペーストが作製された。官能評価の結果、油滴サイズの大きなEは口どけが良く、小さなHは口どけが悪かった。繰り返し圧縮加算試験(口どけ食感解析)の結果、水非存在下ではE、Hとも圧縮時の荷重は圧縮回数と共に上昇したが、水存在下ではどちらも3回目圧縮時に荷重の低下が見られた。Eでは3回目圧縮時の荷重低下後、緩やかに5回目まで低下したのに対し、Hでは3回目の荷重低下以降再び上昇した。また、デジタルカメラの撮影の結果、EとHの圧縮時の横方向の伸び率に差があり、EはHより広がりやすかった。また試験後の破片は、Eが分散状であるのに対し、Hは塊状であり、破壊構造に差が見られた。さらに、繰り返し圧縮後を想定した80%圧縮時の動的粘弾性試験ではEの 複素粘度(η*)はHより低く、この低い粘度が分散した破片構造をもたらしたと考えられた。さらに、顕微鏡を用いた破壊構造の観察結果についても報告し、口どけとの関連性を考察する。