2003年9月 日本食品科学工学会第50回大会(東京)

酵素処理により作成された油脂加工澱粉の糊化特性

○豊泉 智,中村 卓(明治大農・農化)

【目的】

食感制御の目的で、食品素材として各種澱粉や加工澱粉が広く使われおり、その一つに油脂加工澱粉がある。以前、我々は酵素処理による油脂加工澱粉の作成1)と、油脂加工澱粉のスラリー(水に懸濁した状態)粘度特性2)について報告した。今回は酵素処理により作成された油脂加工澱粉の糊化特性について報告する。

【方法及び結果】

油脂0.5%添加した澱粉にLipoxygenase-1酵素溶液を添加後、乾燥して油脂加工澱粉を作成した。固形分濃度8%(w/w)の澱粉スラリーを作成し、Rapid viscoanalyzer(RVA)により、糊化曲線を得た。糊化開始温度を比較すると、油脂のみ、酵素のみ、油脂と加熱失活酵素を添加した澱粉より、油脂を添加し酵素処理した油脂加工澱粉の方が高かった。そこで共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)で粒表面の油脂存在状態を観察したところ、糊化開始温度が変わらなかった澱粉では、油脂は粒表面に広がっていなかった。しかし、糊化開始温度が高かった澱粉では、粒表面に油脂は広がっていた。さらに原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、糊化開始温度が変わらなかった澱粉では、未加工澱粉と同様に直径40〜200nmの突起が数多く存在し、粒表面は粗かった。しかし、糊化開始温度が高かった澱粉では、突起はほとんど観察されず、粒表面が滑らかだった。
以上の結果より、酵素処理された油脂加工澱粉は粒表面に油がコーティングされ、表面構造が変化したため、糊化開始温度が高くなったと推定した。

1) 豊泉ら;日本農芸化学会 2003年度大会講演要旨集 P203

2) 豊泉ら;日本食品科学工学会 第49回大会講演習p214(2002)

2003年4月 日本農芸化学会第47回大会(神奈川)

酵素処理による油脂加工澱粉の作成

○豊泉 智,中村 卓 (明治大農・農化)

【目的】

油脂加工澱粉は水に懸濁したスラリー状態で粘度を示し沈殿しにくく、揚げ物用バッターなどに用いられている。昨年、この油脂加工澱粉の粘度特性について報告した1)。今回は酵素(リポキシゲナーゼ)を用い、油脂加工澱粉を作成した。

【方法及び結果】

油脂を1%以下添加混合した澱粉に酵素溶液を添加した後、乾燥した。澱粉スラリー(35%(w/w))を作り、B型粘度計により粘度を測定した。油脂と酵素を添加した澱粉は、スラリー状態で未加工よりも高い粘度を示した。しかし、油脂のみ、酵素のみ、油脂と加熱失活酵素を添加した場合、スラリー粘度は油脂と酵素を添加したものより低かった。また共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果、粘度を示したものでは、澱粉粒同士が会合し油脂は澱粉粒表面に広がっていた。しかし、粘度を示さなかったものは、澱粉粒が均一に分散し、油脂は澱粉粒表面に広がっていなかった。 以上より油脂と酵素を添加することで油脂加工澱粉が作成されたと考えた。また酵素反応条件の影響についても報告する。

1)豊泉ら;日本食品科学工学会 第49回大会講演集p214(2002)

2002年8月 日本食品科学工学会第49回大会(名古屋)

油脂加工澱粉のスラリー粘度特性

○豊泉 智,永山 晶子,中村 卓(明治大農・農化)

【目的】

澱粉に加工処理を施し本来の構造や物性を改質したものを加工澱粉という。このような澱粉の一つに油脂加工澱粉がある。この澱粉は水に懸濁した状態(スラリ−状態)で粘性を示し、沈殿しにくい特性がある。そこで本研究では、なぜスラリー状態で粘度を示すのかを明らかにすることを目的とした。

【方法】

澱粉として油脂加工澱粉、未加工澱粉を、蛋白質として卵白蛋白質、乳蛋白質、大豆蛋白質を用いた。水又は蛋白質を添加した澱粉スラリー(35%(w/w))を作り、B型粘度計により粘度を測定した。蛋白質の乳化活性はPEARCH と KINSELLAの方法で測定した。顕微鏡により油脂加工澱粉の油脂の状態と澱粉粒の分散状態を観察した。

【結果】

油脂加工澱粉は、未加工澱粉に比べ10倍以上高い粘度を示した。また顕微鏡観察より、油脂は澱粉粒に存在していた。澱粉粒の水への分散状態は未加工澱粉では均一であったが、油脂加工澱粉では粒子同士が会合していた。一方、油脂加工澱粉のスラリーに蛋白質や界面活性剤を加えると、粘度は低下した。この粘度低下効果は蛋白質の種類によって異なり、乳化活性が高いものほど大きかった。顕微鏡観察では、澱粉粒同士は会合せず、バラバラの状態で存在していた。 以上の結果より、油脂加工澱粉をスラリーにした際、澱粉粒に結合した油脂を介して澱粉粒同士が会合し粘度を発現したと推定した。