2004年3月 日本農芸化学会本大会(広島)

大豆グリシニンの加熱ゲル化後期過程における分子間結合の評価
〜Evaluation of Intermolecular Bond in the Late Stage of Heat-Induced Gelation of Glycinin〜

○曽我 治,隠木 一晃,中村 卓,*森 友彦(明治大農・農化,*京大院農・農学)

【目的】

グリシニンは大豆タンパク質の主要成分の1つであり、その加熱ゲル化能はゲル状食品の物性発現に大きく寄与している。過去我々は、グリシニンの加熱ゲル化後期過程によるゲル強度調節因子に関して報告した。本研究では、さらにネットワークの構造と、その結合力の側面から検討した。

【方法および結果】

ツルノコ大豆から精製したグリシニンを35mM K-Piバッファー(pH7.6 0.4M NaCl)中で8%濃度に調製し、100℃、3分間加熱してゲルとした後、NaClの代わりにNaSCN、Na2SO4をそれぞれ含んだバッファーにゲルを浸漬して合計20分となるように再加熱した。またバッファーにSH基の封鎖剤であるN-ethylmaleimide(NEM)を加えたものに関しても同様の操作を行った。ゲルの強度は浸漬時のイオンにより変化が見られたが、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察ではゲルネットワークに大きな差異は見られなかった。これよりゲル形成後期過程において、タンパク質間におけるSH/S-S交換反応による新たなS-S結合、および疎水的相互作用はネットワーク構造を変化させるのではなく、すでに形成されたネットワークの強度を調節する働きを有していることが示唆された。

2002年8月 日本食品科学工学会第49回大会(名古屋)

大豆グリシニンの加熱ゲル化後期過程におけるゲル強度調節因子の解析

○曽我 治,中村 卓,森 友彦(明治大農・農化,京大院農・農)

【目的】

グリシニンは大豆タンパク質の主要成分の1つであり、その加熱ゲル化能はゲル状食品の物性発現に大きく寄与している。以前の研究において我々は、グリシニンが加熱ゲルを形成する初期段階において分子は長軸方向に自己集合的に会合し、なおかつジスルフィド結合を中心とする3次元的な分岐の存在によりネットワークを形成することを明らかにした1,2)。本研究では、さらに加熱を続けた後期過程において、形成されるゲルのかたさの増加にどのような因子が関与しているかということを明らかにすることを目的とし、各種イオン存在下でのゲルのかたさを測定した。

【方法】

ツルノコ大豆からイオン交換クロマトグラフィーで精製したグリシニンを35mM K-Pi バッファー(pH7.6 0.4M NaCl)中で8%濃度に調製した。キャピラリー中で100℃、3分間加熱してゲルとした後、SH基封鎖剤であるNEMを含むバッファー、及びNaClの代わりにNaSCN、Na2SO4をそれぞれ含んだバッファーに浸漬した。再びゲルをキャピラリー中に戻し100℃で合計20分となるように加熱を行い、得られたゲルについてレオメーターを用いてそのかたさを測定した。

【結果】

3分間加熱して形成したゲルは、20分間加熱した完熟ゲルに対して半分程度のかたさを持っていた。また、NaClおよびNa2SO4バッファーに浸漬した後に追加加熱したものについては20分加熱と同程度までそのかたさが上昇した。それに対してNEMバッファーとNaSCNバッファー浸漬ゲルでは再加熱を行ってもゲル強度の増加は起こらなかった。これよりゲル形成後期過程において、タンパク質間におけるSH/S-S交換反応によるジスルフィド結合、及び加熱に伴う疎水結合の形成がゲルの強度に大きく関与していることが示唆された。

1)曽我ら 日本食品科学工学会 第48回大会講演集  p83 2)中村ら 日本農芸化学会 2002年度大会講演要旨集 p26

2001年9月 日本食品科学工学会第48回大会(高松)

大豆グリシニンの加熱ゲル化過程における可溶性会合体のナノスケール解析

○曽我 治,早川 由希子,佐藤 絵里子,中村 卓,樋笠 隆彦,森 友彦
(明治大農・農化,京大院農・農学)

【目的】

グリシニンは大豆タンパク質の主要成分の1つであり、その加熱ゲル化能はゲル状食品の物性発現に大きく寄与している。以前の研究において我々は、加熱によってグリシニン分子が自己集合的に会合し、分岐を有した数珠状の可溶性会合体を経てネットワーク構造を形成しゲルとなることを明らかにした1)。本研究では、この加熱ゲル化のプロセスにおいてグリシニン分子がどのような方向性を持って数珠状に会合するかを明らかにすることを目的とし、原子間力顕微鏡(AFM)と透過型電子顕微鏡(TEM)によりゲル化の中間体である可溶性会合体をナノスケールで観察した。

【方法】

ツルノコ大豆からイオン交換クロマトグラフィーで精製したグリシニンを35mM K-Pi バッファー(pH7.6 0.4M NaCl)中で2%濃度に調製した。N-ethylmaleimide(NEM)を添加したものと無添加のものを100℃で1分間加熱し、Tsk gel(G-4000SWXL)ゲルろ過クロマトグラフィーにより高分子画分を得、タッピングモード・AFM観察とネガティブ染色によるTEM観察を行った。

【結果】

SH基封鎖剤であるNEMを加えて加熱した、分岐のない可溶性会合体の高さは7〜8nmとほぼ一律であった。加熱を行わずに観察したものの高さも同程度であり、これはグリシニン分子の大きさとも一致した2,3)。このことからSH基の関与しないグリシニンの加熱会合体はすべて一定の方向性を有して連なっていると考えられた。また、SH基を封鎖しない場合においても会合体の高さは7〜8nmであったが、2次元的な分岐のほかにも一部に15nm程度の高さを持った部分が観察され、SH基の関与する分岐は2次元方向のみならず3次元方向にも形成されていることが示唆された。

1) Nakamura et al, J. Agric. Food Chem., 32, 349 (1984)
2) Badley et al, Biochim. Biophys. Acta, 412, 214 (1975)
3) Adachi et al, J. Mol. Biol., 305, 291(2001)