2021年8月 日本食品科学工学会(オンライン:福岡)

プロセスチーズの機能特性と構造の相関〜糸曳性・メルティング性〜

(明治大農・農化) ○澤本佑里佳,野中麻帆,中村卓

【目的】

プロセスチーズは原料配合や製造条件を変えることにより、様々な物性や食感をもつ製品が作られている。その物性のひとつである「糸曳性」は、「加熱すると溶けて伸びる」という性質で、チーズの視覚的な「おいしさ」を感じる重要なファクターである。プロセスチーズに糸曳性を付与するためには、まず十分な熱溶融性が確保されていることが前提条件となるが、糸曳性発現のメカニズムについては明らかではない点が多い。本研究では、溶融・曳糸時の物性測定と構造観察の相関から、糸曳性発現のメカニズムを明らかにすることを目的とした。

【方法】

糸曳性の異なる、「とろける」プロセスチーズ(スライスタイプ)の市販品3種をサンプルとした。これらのチーズを加熱後、引張試験機を用いて糸曳性試験を行い、伸長様子の画像解析と嗜好性の官能評価を行った。また、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)による成分分布観察(未加熱)、走査型電子顕微鏡(SEM)による微細構造観察(未加熱、加熱溶融、加熱伸長)を行った。

【結果】

糸曳性試験の結果、伸長距離はA>B>Cであった。また、Aは裂け目が並び束状、Bは裂け目がランダムで束状、Cは膜状に伸びた。成分分布観察の結果、3種類で脂肪球に違いが見られた。Aでは大小様々で分布に周期性があり、Bは大小様々で分布はランダム、Cは小さく分布は均一であった。微細構造観察の結果、未加熱では、脂肪球の大きさ・分布が成分分布観察の結果と一致した。未加熱のネットワーク構造は、Aが太いストランド状・房状であったのに対して、B・Cは房状であった。加熱溶融では、A・Bでのみ大きな裂け目が観察された。加熱伸長では、A・Bで束状構造が、Cで膜状構造が観察された。また全ての条件でA・Bのみ局所的に細い繊維状構造が観察され、特に加熱伸長では、伸長した束同士をつなぐ繊維状構造が観察された。これらの構造の違いと官能評価の関係について考察する。