○齋藤 健太1、釜口 良誠2、水谷 勝史2、中村 卓1(1明治大院農・農化、2森下仁丹(株))
食用カプセルに求められる機能性としては、品質保持、栄養強化、風味(フレーバー)、食感がある。これらの機能性にはシェル(フィルム、膜)の構造が大きく関係していると考えられる。シェルの構造形成成分にはタンパク質と多糖類がある。これらを混合すると一般的に相分離構造を形成することが知られている。本研究ではタンパク質として冷却によりゲル化するゼラチンを、多糖類として澱粉の分解物でゲル化能のないマルトデキストリンを用いた。前回大会においてマルトデキストリンのデキストロース当量(DE)が異なるものを用いることで分散相サイズの異なる4種類のゲル構造(均質・ミクロ相分離・セミマクロ相分離・マクロ相分離)を形成することを明らかにした(1)。そこで本研究では、分散相サイズの異なるゲル構造を形成する溶液を用いたゼラチン/マルトデキストリン共存フィルムを作製し、それらの微細構造と物性の相関を明らかにすることを目的とした。
ゼラチン濃度を20%、マルトデキストリン濃度を10%、グリセリン濃度を4%に固定した。マルトデキストリンのDEは4・11・16・18を用いた。それぞれ調製し、60℃で10分間加熱した溶液を塩化ビニールの鋳型に分注し、氷水で10分間冷却後、5℃で一晩冷蔵してゲル-シートを作製した。さらに、ゲル-シートを乾燥させてフィルムを作製した。これらのフィルムについてクリープメータで突き刺し試験を、溶出試験器で溶解性を測定した。さらに共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて微細構造を観察した。
CLSM・SEM観察の結果より、フィルム構造においてもゲルと同様にDEが異なるものを用いることで、分散相サイズの異なる4種類の構造(均質・ミクロ相分離・セミマクロ相分離・マクロ相分離)を形成した。DEが低い程、マルトデキストリン-リッチ分散相の直径が大きい傾向を示した。ゲル-シートを乾燥してフィルムにすることで、分散相の形状が球体から楕円体に変化した。フィルムの突き刺し試験の結果、分散相を形成しない均質構造、1μm未満の小さな分散相をもつミクロ相分離構造、1〜10μmの分散相をもつセミマクロ相分離構造、10μm以上の大きな分散相をもつマクロ相分離構造の順で、短い変形距離で破断した。また、溶解性は大きな分散相をもつ構造の方が、溶けにくい傾向がみられた。以上の結果から分散相サイズが異なるフィルムの構造と物性の関係について考察する。 (1)日本農芸化学会2012年度大会講演要旨集 p.575
○齋藤 健太、中村 卓(明治大院農・農化)
食感は食品構造の違いにより生じる。その構造形成成分にはタンパク質と多糖類がある。これらを混合すると一般的に相分離構造を形成することが知られている。本研究ではタンパク質として冷却によりゲル化するゼラチンを、多糖類として澱粉の分解物でゲル化能のないマルトデキストリンを用いた。マルトデキストリンの濃度とデキストロース当量(DE)を変化させることで分散相サイズの異なるゲル構造(マクロ・セミマクロ・ミクロ)を形成することを明らかにした。さらに、これらの分散相サイズと割合の違いが異なる破断物性に関係していることを報告した(1)。そこで本研究では、全固形分濃度を固定し、配合とDEを変化させることで、ゼラチン/マルトデキストリン共存ゲルの構造と物性の相関を明らかにすることを目的とした。
ゼラチン/マルトデキストリンの合計固形分濃度を30%、グリセリン濃度を4%に固定し、ゼラチン濃度とマルトデキストリン濃度は10-20%の間で変化させた。マルトデキストリンのDEは4・11・18を用いた。またコントロールとして水あめ(DE:63)を用いた。それぞれ調製した共存溶液を60℃で10分間加熱し、氷水で10分間冷却後、5℃で一晩冷蔵してゲルを作製した。これらのゲルについてクリープメータで破断強度試験を行った。さらに共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてゲルの構造を観察した。
CLSM・SEM観察の結果より、配合とDEを変化させることで、分散相サイズの異なる4種類のゲル(均質・マクロ・セミマクロ・ミクロ)の形成とゼラチン-リッチ連続相の転相を起こすことを明らかにした。DEが低くなる程、マルトデキストリン-リッチ分散相の直径が大きくなる傾向を示した。しかし、マルトデキストリン濃度が高く、転相を起こさない配合で、1μm未満の小さな分散相をもつミクロ相分離ゲルを形成した。破断強度試験の結果、分散相を形成しない均質ゲルと比較して、分散相が存在する相分離ゲルの方が、低歪率での立ち上がり応力が低くなった。10μm以上の大きな分散相をもつマクロ相分離ゲルの場合、破断後の応力が急激に減少した。1〜10μmの分散相をもつセミマクロ相分離ゲルの場合、破断後の応力の減少が小さく、その後波打った波形を示した。ミクロ相分離ゲルの場合、破断後の応力の減少がさらに小さく、その後波打った波形を示した。均質ゲルでは高応力で破断する物性を示した。以上の結果から4種類の構造が異なるゲルの構造と物性の関係について考察する。 (1)第58回食品科学工学会大会要旨集 p.71
○齊藤健太 中村卓
○齊藤健太 山田芳 武藤愛 中村卓
ゲル状食品の構造形成成分にはタンパク質と多糖類がある。そのゲル化機構には、それぞれ加熱中にゲル化するものと冷却中にゲル化するものがある。本研究者らは、加熱中にゲル化する多糖類であるカードランと、同様に加熱中にゲル化する卵白タンパク質との共存ゲルで、互いが連続体となるダブルネットワーク構造を形成する可能性を報告した1)。そこで、本研究では、この共存ゲルと冷却中にゲル化するゼラチンとカードランの共存ゲルを比較することにより、ゲル化機構の異なるタンパク質添加がカードランゲルの構造と物性にどのように影響するのか明らかにすることを目的とした。さらに、ダブルネットワーク構造についても解析した。
カードラン、卵白タンパク質、ゼラチンの濃度は、各単独ゲルでほぼ同じ破断応力を示す濃度に設定した。それぞれ調製した共存溶液を95℃、10分間加熱し、氷水中で10分間冷却後、6℃で一晩冷蔵してゲルを作製した。これらのゲルについてクリープメーターで破断測定した。さらに共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてゲルの構造を観察した。
カードラン・卵白タンパク質共存ゲルの破断測定の結果、高歪率においても破断が起きない特異的な物性を示した。Proteinase処理によるSEM観察の結果から、両成分が互いに連続したネットワーク構造を形成していると考えられた。さらにTEMの高倍率観察の結果、互いのネットワークが相互に侵入し合ったダブルネットワーク構造を形成していることが明らかとなった。一方、カードラン・ゼラチン共存ゲルの破断測定の結果、低濃度のゼラチン共存ゲルでは各単独ゲルよりも低歪率・低応力で破断する物性を示した。しかし、高濃度のゼラチン共存ゲルでは低歪率において高い応力を示した。これらカードラン・ゼラチン共存ゲルの構造観察についても報告する。 1)日本食品科学工学会第56回大会講演集p.121(2009年)