2008年9月 日本食品科学工学会第55回大会(京都)

乳化剤と熱処理の組み合わせによる澱粉への耐老化性の付与

○小野純,中村卓(明治大院・農化)

【目的】

澱粉に加工を施し、本来の構造や物性を改質した澱粉を加工澱粉という。現在、食品に利用されている加工澱粉の多くは、澱粉を水に懸濁したスラリー状態で、化学薬品を用いて加工されており、食の安全性への不安や廃水による環境負荷が懸念される。そこで食品素材を用い、物理的方法により澱粉の改質を目指している。本研究では、食品添加物である食品用乳化剤を用いた。更に、廃水の出ない加工法として乾式熱処理を行い、乳化剤と熱処理を組み合わせることで、アミロースと乳化剤の複合体を形成させ、澱粉の耐老化性の改善を試みた。前回、各単独での影響が小さい条件で乳化剤と熱処理を組み合わせることにより、澱粉に耐老化性が付与されたことを報告した(1)。しかし、この加工澱粉の老化抑制能は低かったので、より耐老化性の向上を目的とし、乳化剤の種類及びその濃度を検討した。

【方法及び結果】

澱粉は小麦澱粉を用いた。各種、乳化剤エタノール溶液を澱粉に添加・ミキシングし、乳化剤添加澱粉(対澱粉0.05-0.50%)を調製した。その後、密閉容器で120℃を中心とする温度で1時間熱処理した。@未処理,A乳化剤添加,B乳化剤添加[熱処理]の澱粉について、糊化特性を加熱撹拌型粘度測定装置(RVA)にて測定した。また、老化はRVAにより得られた糊液を冷解凍させ、その硬さの変化をクリープメーターにて測定し評価した。 【結果】コハク酸モノグリセリドを0.50%添加したB乳化剤添加[熱処理]の糊化粘度は、熱処理温度が増加するにつれて、最高粘度・最終粘度が低下した。 ゲルの硬さ変化も、熱処理温度が増加するにつれて、A乳化剤添加のゲルよりも硬さの変化が小さくなった。つまり、より高温で熱処理することで澱粉の膨潤が抑制され、老化抑制能が高まった。以上、より高い濃度・温度の乳化剤と熱処理を組み合わせることで、耐老化性が向上した澱粉に改質することができた。 (1)第54回食品科学工学会大会講演集 p151

2007年9月 日本食品科学工学会第54回大会(福岡)

乳化剤澱粉の熱処理による改質

○小野純,中村卓(明治大院・農化)

【目的】

澱粉に加工を施し、本来の構造や物性を改質した澱粉を加工澱粉という。現在ある加工澱粉のほとんどは澱粉を水に懸濁したスラリー状態で、化学薬品を用いて加工されており、安全性への不安と廃水による環境への負荷が懸念される。そこで本研究では、食品添加物である乳化剤を澱粉の加工素材として用いた。さらに、廃水の出ない加工法として乾式熱処理を行い、澱粉の改質を試みた。

【方法及び結果】

原料として澱粉は小麦を、乳化剤は有機酸モノグリセリドを用いた。小麦澱粉に対して10%の割合で0.5%濃度乳化剤エタノール溶液を添加混合し、乳化剤(対澱粉0.05%)添加澱粉を調製した。その後、密閉容器で120℃・4時間熱処理し、容器から取り出し40℃で一晩乾燥した。得られた加工澱粉の糊化特性をRVAで測定した。乳化剤添加のみ、熱処理のみでは、RVA曲線に変化が見られなかった。しかし、乳化剤添加+[熱処理]では、糊化開始温度は上昇し、最高粘度、最終粘度は低下した。これより、熱処理中に乳化剤が澱粉に作用し、膨潤が抑制されたと考えられた。RVAで得た糊液について冷解凍を繰り返し、そのゲルの硬さをクリープメーターで測定した。乳化剤添加したゲルの硬さは減少した。さらに、乳化剤添加+[熱処理]したゲルは乳化剤添加のみのゲルよりも柔らかい傾向を示した。示差走査熱量計(DSC)で熱分析した結果、全ての澱粉で65℃及び95℃付近において同様の吸熱ピークが得られた。また、110℃付近で乳化剤の有無に関わらず熱処理することにより、新たなピークが得られた。しかし、このエンタルピーは乳化剤を添加することで4倍に増加した。 以上、乳化剤を添加して熱処理することにより澱粉の膨潤が抑制され、さらに老化抑制が付与された澱粉に改質することができた。この加工澱粉の膨潤抑制・老化抑制は、新たな複合体おそらくアミロース‐乳化剤複合体の形成に起因していると考えられた。

2006年8月 日本食品科学工学会第53回大会(藤沢)

卵白タンパク質添加澱粉の湿熱処理による改質

○小野純,藤野揚子,中村卓(明治大農・農化)

【目的】

澱粉に加工を施し、本来の構造や物性を改質した澱粉を加工澱粉という。現在ある加工澱粉のほとんどは澱粉を水に懸濁したスラリー状態で、化学薬品を用いて加工されており、安全性への不安と廃水による環境への負荷が懸念される。そこで本研究では、食品素材である卵白タンパク質を澱粉の加工素材として用いた。さらに、乾式に近い廃水の出ない加工法である湿熱処理を行い、澱粉の改質を試みた。

【方法及び結果】

タピオカ澱粉に対して10%の割合で2.5%濃度卵白溶液を添加し、水分含量約20%の卵白添加澱粉を調製した。その後、120℃で湿熱処理した。これら加工澱粉の表面構造を原子間力顕微鏡で観察した。湿熱処理澱粉は、未処理に比べて微細な凹凸構造が滑らかになっていた。湿熱処理した卵白添加澱粉を水で洗浄後、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察した。澱粉粒表面にタンパク質の存在が確認され、卵白タンパク質が不溶化していることが明らかとなった。この湿熱処理により卵白添加澱粉の乳化能は増加した。また、RVAで糊化特性を測定した結果、湿熱処理により糊化開始温度は上昇し、最高粘度は低下した。さらに、膨潤度・可溶性糖分の溶出も低下した。 以上の結果より、湿熱処理することにより澱粉の膨潤が抑制された。また、卵白を添加して湿熱処理することによりさらに乳化能が付与された澱粉に改質することができた。この乳化能は不溶化したタンパク質が澱粉粒表面に存在するためと考えられた。