2011年9月 日本食品科学工学会本大会(東京農大)

焼成による小麦澱粉と米澱粉の 構造と糊化特性の比較

○猶塚雄太・杉田江里伊・中村卓

【目的】

現在、米の消費拡大を目指すため、小麦粉用途(生地食品)の代替として米粉の利用が注目されている。小麦粉と米粉の大きな差はグルテンの有無であり、加工による生地形成にはグルテンの影響が大きく、小麦粉で最適化されたシステムの中で米粉を使いこなすには困難が伴う。一方、加熱による生地食品の構造変化はその主成分である澱粉の糊化が重要である。また、パンなどの焼成生地食品は一定温度で焼成されるが、食品の外側から内側へ熱が伝わるため温度・水分に勾配を生じる。この時、生地に含まれる澱粉は部分糊化により構造は変化するが粒構造を保持している。この様な澱粉粒構造の変化は食感や2次加工特性に関係し、澱粉食品の食感を制御するために重要と考えられる。しかし、生地食品中の澱粉粒構造への水分と温度の勾配の影響は明らかではない。 そこで本研究では、水分・焼成温度を組み合わせたモデル系としてサンプル調整し、温度・水分の違いが小麦澱粉と米澱粉の構造・糊化特性にどのように影響しているかを比較し、小麦粉の代替として米粉を利用していくための基礎データとすることを目的とした。

【方法】

試料は小麦澱粉と米澱粉を用いた。それぞれの澱粉を水分含量15%、25%、35%、45%に調整し、これらの生地をそれぞれ100℃、120℃、150℃、180℃で焼成した。焼成後、液体窒素中で凍結粉砕機にて粉体にした。得られた熱処理澱粉について、糊化特性をRapid Visco Analyzer(RVA)と示差走査熱量計(DSC)で、結晶構造をX線回折装置で測定した。表面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で、内部構造を共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)で観察した。

【結果】

RVAによる糊化粘度測定では、小麦澱粉と米澱粉それぞれ、焼成温度・水分が高くなるにつれて最高粘度、最終粘度が低下した。また、X線回折でも温度・水分が高くなるにつれて結晶構造の変化が見られ、アミロペクチンの結晶化度が減少した。しかし、小麦澱粉と米澱粉では結晶構造や糊化特性が変化し始める温度・水分の組み合わせに違いが見られた。さらに、電子顕微鏡による構造観察も行う予定である。

2009年9月 日本食品科学工学会本大会(名古屋)

低水分下での熱処理による各種穀物澱粉の構造と糊化特性の変化

○猶塚雄太・服部敦・小野純・中村卓

【目的】

麺などの澱粉を含む低水分生地食品は、外部から加熱され澱粉が部分的に糊化し周りから吸水膨潤する。そのため、食品の外側から中心に向かって温度や水分の勾配を生じる。この時、生地に含まれる澱粉は部分糊化により構造は変化するが粒構造を保持している。この様な澱粉粒構造の変化は食感や2次加工特性に関係し、澱粉食品の食感を制御するためには重要と考えられる。しかし、部分糊化の状態や具体的構造は明らかでない。更に、水分と温度が連続的勾配を生じ、不均質な糊化状態となる。そのため、食品中での連続的不均質な糊化状態の分析は困難である。そこで本研究では、モデル系を用いて、低水分条件下での澱粉粒の部分糊化状態を系統的に明らかにすることを目的とした。各種穀物澱粉について構造と糊化特性への加熱処理における水分と温度の影響について検討した。

【方法及び結果】

試料は小麦澱粉(W)、とうもろこし澱粉(C)、ワキシーとうもろこし澱粉(WC)、米澱粉(R)を用いた。それぞれの澱粉を水分含量30%、35%、40%、50%、60%に調整し、アルミ蒸着フィルム袋に入れ薄いシート状にした。これらの生地をそれぞれ50℃、60℃、80℃、100℃で加熱した。乾燥後、液体窒素中で凍結粉砕機にて粉体にした。得られた80種類の熱処理澱粉について、糊化特性をRapid Visco Analyzer(RVA)と示差走査熱量計(DSC)で、結晶構造をX線回折装置で測定し、表面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で、内部構造を共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)で観察した。RVAによる糊化粘度測定では、いずれの澱粉種においても、加熱温度・水分ともに高くなるにつれて最高粘度、最終粘度が低下した。また、80℃以上の熱処理では水分量が高くなるにつれて糊化開始温度が上昇した。DSCでも同様に80℃以上での熱処理により水分が高くなるにつれて吸熱ピークが高温側へシフトした。X線回折でも温度・水分が高くなるにつれて結晶構造の変化が見られ、アミロペクチンの結晶化度が減少した。WとRでは、加熱温度・水分が高くなるにつれてアミロース−脂質複合体の結晶化度が上昇したが、WCでは見られなかった。更に、顕微鏡による澱粉粒の表面構造と内部構造の観察結果についても報告する。