2008年9月 日本食品科学工学会第55回大会(福岡)

卵白タンパク質とゲル化機構の異なる多糖類(寒天・カードラン・ジェランガム)の共存ゲルの物性と構造

○武藤愛,中村卓(明治大院・農化)

【目的】

 一般的に球状タンパク質は加熱によってゲル化する加熱ゲルであり、多糖類は冷却によってゲル化する冷却ゲルとされている。しかし、多糖類の代表的な冷却ゲルである寒天以外にも、加熱ゲルであるカードランや冷却時に金属イオンによる架橋でゲル化するジェランガムなどがある。つまり、多糖類にはゲル化機構が異なるものが存在する。本研究ではタンパク質の加熱ゲルである卵白に、ゲル化機構が異なる多糖類を共存させたときの物性と構造がどのようになるか、明らかにすることを目的とした。

【方法】

 単独ゲルのかたさがほぼ等しくなる濃度に調整した以下の単独溶液(6.5%卵白、1.5%寒天、2.7%カードラン、0.6%ジェランガム)と、それらの共存溶液の計7種類を95℃で10分間加熱し、氷水中で10分間冷却後、6℃で一晩冷蔵してゲルを作製した。これらのゲルについてクリープメーター(山電社製)にて破断強度試験を行った。さらに共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてゲルの構造を観察した。

【結果】

 破断強度試験の結果は、卵白・寒天共存ゲルは各単独ゲルよりも破断応力が低下し、破断歪率も低歪率側にシフトする脆いゲルとなった。卵白・カードラン共存ゲルは高歪率部分においても破断点が得られず、ゲル強度が上昇した強固なゲルとなった。卵白・ジェランガム共存ゲルは曲線の立ち上がりが各単独ゲルよりも急勾配となり、破断応力はジェランガム単独とほぼ等しく、このことからゲルネットワーク密度が増加したものと考えられる。  CLSM観察では卵白・寒天共存ゲルは卵白凝集体が不連続に存在していた。それに対し卵白・カードラン共存ゲルは卵白凝集体が連続相を形成していた。また卵白・ジェランガム共存ゲルは二種類のサイズの卵白凝集体が存在していた。以上の様に三種の共存ゲルにおけるタンパク質の相構造は異なっていた。電子顕微鏡による観察結果も合わせて報告する。

2008年3月 日本農芸化学会本大会(名古屋)

卵白タンパク質とカードランの共存ゲルの構造と物性

○武藤愛,渡部幸一郎,中村卓(明治大農・農化)

【目的】

タンパク質と多糖類の共存ゲルは一般的に相分離を起こすとされている。しかし、卵白タンパク質と加熱ゲル化性の多糖類であるカードランの共存ゲルではお互いが連続相となるダブルネットワーク構造を形成した1)。そこで、今回はこのダブルネットワーク構造形成とその物性への加熱温度と混合比の影響を明らかにすることを目的とした。

【方法および結果】

6.5%卵白、2.7%カードラン単独と共存の溶液計3種類を95℃で10分間加熱後、氷水中で10分間冷却し一晩冷蔵してゲルを作製した。また、70℃で加熱したゲルと混合比の異なるゲルも作製した。これらのゲルについてクリープメーターにて破断強度を測定し、各種顕微鏡でゲルの構造を観察した。70℃加熱でも95℃加熱と同様に共存ゲルは単独ゲルよりもゲル強度が高くなり、破断点は見られなかった。しかし、混合比を変化させた共存ゲルでは破断点が見られた。また走査型電子顕微鏡による構造観察の結果、破断点が見られない共存ゲルではネットワークが相互に侵入し、均質な構造をしていた。しかし、破断点が見られた共存ゲルでは不連続な相分離が観察された。 1)日本食品科学工学会2007年度大会講演要旨集p150

2007年9月 日本食品科学工学会第54回大会(福岡)

タンパク質とゲル化のタイミングの異なる多糖類の共存ゲルの物性と構造

○武藤愛,堀田浩二,渡部幸一郎,中村卓(明治大農・農化)

【目的】

ゼリーや豆腐のようなゲル状食品にとって、食感(テクスチャー)はおいしさを決定する大きな要因である。ゲル状食品の構造形成成分にはタンパク質と多糖類があり、それぞれ加熱中にゲル化するものと冷却時にゲル化するものがある。現在ではこれらの併用が一般的に行われ、様々なテクスチャーを持つゲル状食品が得られている。そこで、本研究では加熱によってゲル化する卵白タンパク質と、卵白と同様に加熱によってゲル化(ゲル化のタイミングが同じ)するカードラン、または、冷却によってゲル化(ゲル化のタイミングが異なる)する寒天を併用し、これら共存ゲルのテクスチャーと構造にどのような違いが出るのかを明らかにすることを目的とした。

【方法】

単独ゲルのかたさがほぼ等しくなるような濃度に調整した以下の単独溶液(6.5%卵白、1.5%寒天、2.7%カードラン)と、それらの共存溶液(6.5%卵白・1.5%寒天、6.5%卵白・2.7%カードラン)の計5種類を95℃で10分間加熱し、氷水中で10分間冷却後一晩冷蔵してゲルを作製した。これらのゲルについてクリープメーター(山電社製)にて破断強度と静的粘弾性を測定した。さらに各種顕微鏡でゲルの構造を観察した。

【結果】

破断測定の結果は、共存ゲルはどちらも歪み率が低い時はそれぞれの多糖類と同じ曲線パターンを示し、歪み率が高くなると卵白に似た曲線パターンを示した。しかし、卵白・寒天共存ゲルは単独ゲルよりも最大応力が低くなり、かたさが低下した。一方、卵白・カードラン共存ゲルは単独ゲルよりも最大応力が高くなり、かたさが増加した。これら共存ゲルの走査型電子顕微鏡による構造観察の結果は、卵白・寒天共存ゲルは卵白と寒天が相分離を起こし、様々な大きさの卵白凝集体が不規則に存在し、不均質な構造をしていた。一方、卵白・カードラン共存ゲルはネットワークが相互に侵入し、均質な構造をしていた。この様な構造の違いが最大応力の差を生じさせたと考えられる。