2006年8月 日本食品科学工学会第53回大会(藤沢)

大豆グリシニンの加熱ゲル化における二段階温度処理の影響

○水越実,中村卓,森友彦*(明治大農・農化,畿央大健康科・健康栄養*)

【目的】

大豆タンパク質は加熱によりゲル化することから、食感改良の目的で多くの加工食品に用いられている。そのため、大豆タンパク質の主要成分であるグリシニン(Gly)のゲル化に関する研究は種々行われている。Gly は、低イオン強度溶液において、変性温度の異なる6 量体(11S)と3 量体(7S)で存在する。一方、加熱ゲル化による食感発現は、タンパク質が変性→会合体形成→ネットワーク構造化することで生じる為、変性温度と加熱温度の関係が重要となる。つまり、変性履歴の違いによるネットワーク構造形成の過程を明らかにすることは、加熱による食感制御につながると考えられる。そこで、本研究ではGly を用い、加熱温度 を二段階で変化させた際の、加熱方法とゲル物性の相関をネットワーク形成過程の解析により検討した。

【方法】

鶴の子大豆より精製したGly を低イオン強度(3.5mM K-PiBuf.,I=0.01,pH7.6)に調整後、1 段階目60〜95℃→2 段階目95℃でそれぞれ20 分ずつ加熱した。その後、クリープメーターにて物性を測定し、DSC・電気泳動にて変性状態を調べ、SDG にて会合体サイズを分析した。

【結果】

OVAゲルは1段階目を70〜80℃で加熱後、100℃で加熱すると、はじめから100℃で加熱するよりも硬さが小さかった。特に、75℃→100℃加熱では約半分の硬さであった。しかし、ゲルのネットワーク構造に相違は見られなかった。そこで、75℃での1段階目加熱後のゲル中のタンパク質の変性状態を分析したところ、全タンパク質の約2割が未変性モノマー分子の状態で残存していた。また、2段階目加熱後のゲルではすべて高分子化していた。以上より、1段階目加熱後に残存していた未変性モノマー分子が2段階目の加熱により変性・凝集したが、十分な硬さの発現には至らなかったと考えられた。

2005年8月 日本食品科学工学会第52回大会(札幌)

卵白アルブミンの加熱ゲルにおける二段階温度処理の影響

○水越実,中村卓 (明治大農・農化)

【目的】

卵白タンパク質は加熱によりゲル化することから、食感改良の目的で多くの加工食品に用いられている。そのため、卵白タンパク質のゲル化に関する研究は種々行われているが、加熱温度の影響に関する報告は少ない。ゲル化・食感発現は、タンパク質がネットワーク構造化することで生じるが、構造形成には加熱温度が重要である。そこで、加熱温度履歴の違いによるネットワーク構造形成過程を明らかにすることは、食感制御につながると考えられる。本研究では、卵白アルブミン(OVA)を用い、加熱温度を二段階で変化させた条件での、加熱方法と食感との相関、ネットワーク形成過程を検討した。

【方法】

3.5mM K-Pi Buf.(I=0.01,pH7.6)によりOVA(SIGMA,GradeV)を10%に調整後、2段階でそれぞれ20分ずつ加熱しゲルとした(1段階目60、70、75、80、90、100℃→2段階目100℃)。その後、クリープメーターにて物性測定、透過型電子顕微鏡(TEM)にて構造観察を行った。また、DSC、Native-PAGEにて、1段階目加熱後の変性状態を分析した。

【結果】

1 段階目を65〜80℃で加熱後、95℃で加熱したゲルは、はじめから95℃で加熱したものよりも柔らかかった。そこで、75℃で1 段階目の加熱したサンプル(7S はすべて変性)について更に検討した。75℃→95℃では、始めから95℃で加熱したものより、小さな会合体を形成していた。つまり、1 段階目加熱後に残存していた未変性モノマー分子(11S)と会合途中段階の分子が2 段階目の加熱により更に変性・凝集したが、この会合体は、すべて同時に変性し会合したものよりも小さかった。このことが、十分な硬さの発現に至らない一因だと考えられる。

2004年3月 日本農芸化学会本大会(広島)

低イオン強度下における大豆グリシニンの原子間力顕微鏡観察
〜Atomic Force Microscopy Imaging of Soy Glycinin at Low Ion Strength〜

○水越 実,棚橋 誠,堀田 竜之介,曽我 治,中村 卓,森 友彦※(明治大農・農化,京大院農・農学※)

【目的】

大豆タンパク質の主要成分であるグリシニンは、高イオン強度(I=0.5)溶液中においては六量体として存在し、低イオン強度(I=0.01)溶液中においては三量体に解離すると報告されている。本研究では低イオン強度溶液下でグリシニンがどのように解離するか原子間力顕微鏡を用いて検討した。

【方法および結果】

ツルノコ大豆種子より精製したグリシニンを高イオン強度・低イオン強度で透析し、ショ糖密度勾配遠心により六量体・三量体を分画、両分子を原子間力顕微鏡により観察した。高イオン強度溶液で透析し、得た六量体分子は、高さ約7nmであった。また、低イオン強度溶液で透析し、得た六量体・三量体分子の高さはそれぞれ約7nm、3〜4nmであった。このことから、グリシニンは低イオン強度溶液中では、二段に重なった三量体分子が一段ずつに解離することが明らかとなった。