2018年3月 日本農芸化学会(名城大:名古屋)

脂肪粒径の異なるヨーグルトの食感の解析〜構造・物性相関のメカニズムの解明〜

○日下舞1、河原井紹博2、市村武文3、高井めぐみ3、中村卓2(1明治大院農・農化、2明治大農・農化、3 (株)明治)

【目的】

ヨーグルトのおいしさにとって食感は重要な要因である。その食感は食品構造を咀嚼によって破壊するときに発現する。そのため、食品構造を理解し破壊過程を知ることは、ヨーグルトの食感が生まれるメカニズムの解明手段となるだけでなく、望まれる食感を実現する指標となる。ヨーグルトの原材料である乳は乳タンパク質を含むエマルション溶液である。エマルションは油滴サイズを変化させることで食感が変化することが多くの食品で知られている。ヨーグルトにおいても、原料乳の脂肪粒径を変化させると食感に影響することが明らかとなっている。しかし、その食感の違いがどのような構造的要因によるかは明らかでない。そこで本研究では脂肪粒径の異なる原料乳を用いてヨーグルトを作成し、その時の食感の違いを破壊過程に着目した物性測定・構造観察から解析することを目的とした。

【方法】

脂肪球のメディアン径が1.0 μm(以下L)・0.6 μm(以下S)のヨーグルトミックスを発酵・冷却し、ヨーグルトを作成した。物性測定では、第一咀嚼を想定してクリープメーターを用いた破断強度試験を行った。咀嚼後期過程を想定してレオメーターを用いた動的粘弾性試験を行った。また、構造観察では、未破壊および破壊後のヨーグルトを走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。得られた結果についてはSPSSを用いて統計処理を行った。

【結果および考察】

破断強度試験の結果、脂肪粒径の小さいヨーグルトSはLに比べて破断応力が有意に高かった。また、動的粘弾性試験においてもSはサンプルLよりも貯蔵弾性率(G’)が有意に高かった。これらのことから、脂肪粒径を小さくすることでヨーグルトにかたさを付与出来ることが明らかとなった。未破壊構造では、SEM観察でL・Sのいずれにおいてもカゼインミセルが数珠状に連なったストランドネットワーク構造が見られた。しかしSではLに比べて太いストランドが多く観察された。また反射電子モードの観察では、Lの脂肪球はカゼインミセルよりも大きく、Sの脂肪球はカゼインミセルと同じ大きさであった。TEM観察では、SはLよりもカゼインミセルと脂肪球が集まって存在する部分が多く見られた。さらに、破壊構造でもSEM観察において違いが見られた。以上の事から、Sは脂肪球が小さくなったことで、ストランドネットワークの形成に脂肪球が参加しやすくなり、太いストランドが増加し、くずれにくくかたい食感になったと考えられる。

2017年11月 日本官能評価学会(大妻女子大:東京)

脂肪含量の異なるヨーグルトのクリーミーの解析〜食感・風味の寄与と物性・構造の相関〜

○日下舞(明治大院農・農化)・市村武文((株)明治)・高井めぐみ((株)明治)・中村卓(明治大農・農化)

【目的】

ヨーグルトのおいしさを表す表現として”クリーミー”がある。このクリーミーは「風味」と「食感」の両面から複合的に評価される。また、クリーミーは脂肪含量に大きく影響されることが知られている。そこで本研究では、脂肪含量の異なるヨーグルトを試作し、食感と風味について官能評価を行うことで、食感と風味がクリーミーに及ぼす影響を調べた。また、その時の食感発現のメカニズムについて物性測定や構造観察から考察を行った。

【方法】

脂肪含量の異なるヨーグルトミックス3種(脂肪含量3%・6%・9%)を発酵・冷却し、ヨーグルトを作成した。官能評価ではヨーグルトの主な食感表現6項目・風味表現2項目に加え、「食感のクリーミー」と、風味を含めた「全体のクリーミー」を評価した。物性測定では、破断強度試験と動的粘弾性試験を行った。また、構造観察では、未破壊および破壊後のヨーグルトを各種顕微鏡にて観察を行った。

【結果】

官能評価の結果、脂肪含量が増加する程ヨーグルトは柔らかさに欠けた粘りのある食感になった。主成分分析の結果、第1主成分は脂肪含量に依存する「食感」の軸、第2主成分は「風味」の軸であると考えられ、脂肪含量が多いほどクリーミーになることが明らかとなった。この時、「食感のクリーミー」と風味を含めた「全体のクリーミー」を比較すると、脂肪含量が多いほうが寄与の影響が大きくなることが明らかとなった。物性測定の結果、動的粘弾性試験では線形領域における複素粘度η*の値が脂肪含量の多いほど高くなり、これは官能評価の「粘り」と正の相関があった。構造観察の結果と物性の関係についても考察する。

祝優秀賞受賞 2017年8月 日本食品科学工学会(日本大学藤沢)

脂肪含量の異なるヨーグルトのクリーミー食感の見える化

○日下舞1、市村武文3、高井めぐみ3、中村卓2(1明治大院農・農化、2明治大農・農化、3(株)明治)

【目的】

ヨーグルトのおいしさを表す表現として“クリーミー”がある。このクリーミーは脂肪に関係した食感表現である。食感は原材料を加工する過程で形成された構造が、人の咀嚼によって破壊されたときに発現する。構造破壊の過程を明らかにすることは、望まれる食感を実現するための指標となる。そこで本研究では、ヨーグルトの原材料中の脂肪に着目し、脂肪含量の異なるヨーグルトについて、破壊過程に着目した官能評価・物性測定・構造観察を行ない、食感の違いを構造的要因から見える化することを目的とした。

【方法】

脂肪含量の異なるヨーグルトミックス3種(脂肪含量3%・6%・9%)を発酵・冷却し、ヨーグルトを作成した。官能評価ではヨーグルトの主な食感表現として選定した計7項目について、口に入れてから飲み込む前までの咀嚼時間を意識して行った。物性測定では、破断強度試験と動的粘弾性試験を行った。また、構造観察では、未破壊および破壊後のヨーグルトを電子顕微鏡と共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。

【結果】

官能評価の結果、脂肪含量が増加するほどヨーグルトはかたく粘りのある食感になった。また、主成分分析によってクリーミーは脂肪含量に依存し、それに伴って変化する粘りやなめらかさから判断されることが明らかとなった。物性測定の結果、動的粘弾性試験では線形領域における複素粘度η*の値が脂肪含量の多いほど高くなり、これは官能評価の「粘り」と正の相関があった。構造観察では、走査型電子顕微鏡によって未破壊の構造は脂肪含量が増加するほどネットワークの密度が高くなることが明らかとなった。また、透過型電子顕微鏡によって、ネットワークがタンパク質だけでなく脂肪球も取り込み形成されていることが明らかとなった。一方破壊構造において脂肪含量が多いほどネットワークが引きちぎられた構造が多く見られた。これはタンパク質ネットワーク鎖中に脂肪球が介在しているためであると考えられ、このネットワーク構造の引きちぎられやすさのために破片が小さくなり、なめらかな食感が付与されると考えられた。

祝企業賞受賞 2016年8月 日本食品科学工学会(名城大学)

殺菌温度の異なるヨーグルトの食感の見える化〜破壊過程に着目した官能評価と物性・構造の相関〜

○日下舞1、市村武文3、風間紫穏2、中村卓2(1明治大院農・農化、2明治大農・農化、3(株)明治)

【目的】

ヨーグルトのおいしさにとって食感は重要な要因である。食感は咀嚼により食品構造を破壊することによって発現する。構造破壊の過程を明らかにすることは、望まれる食感を実現するための指標となる。ヨーグルトの構造は原料の混合・均質化・殺菌・発酵・冷却の過程の中で形成される。この形成過程において原料の殺菌温度を変化させると、ヨーグルトのカード強度が変化し構造と物性が異なることを明らかにした1)。そこで本研究では、原料殺菌温度の異なるヨーグルトについて、破壊過程に着目した官能評価・物性測定・構造観察を行ない、食感の違いを構造的要因から見える化することを目的とした。

【方法】

殺菌温度の異なるヨーグルトミックス3種(70℃殺菌・110℃殺菌・130℃殺菌)を発酵・冷却し、異なる特徴のヨーグルトを作成した。官能評価では、ヨーグルトの主な食感表現として選定した計7項目について、口に入れてから飲み込む前までの咀嚼時間を意識して行った。物性測定では、破断強度試験と動的粘弾性試験を行った。また、構造観察では、未破壊および破壊後のヨーグルトを電子顕微鏡で観察した。

【結果】

官能評価の結果、70℃殺菌サンプルはやわらかく流動性のあるヨーグルトとなり、110℃殺菌サンプルは固く粘りのあるヨーグルト、130℃殺菌サンプルはやわらかくなめらかなヨーグルトであることが明らかとなった。物性測定の結果、破断強度試験では110℃殺菌サンプルの破断応力が最も有意に高く、これは官能評価の「やわらかさ」と相関があった。構造観察では、未破壊の構造において110℃殺菌サンプルと130℃殺菌サンプルではカゼインミセルがストランド状のネットワーク構造を形成しているのが観察されたのに対し、70℃殺菌サンプルではカゼインミセルがランダムに凝集した構造が観察された。この差は官能評価の「くずれやすさ」の違いの原因となっていると考えられた。さらに破壊ヨーグルトの構造についても報告し、食感と物性・構造の関係について考察する。

1)日下ら、日本農芸化学会2016年度大会 4E052

2016年3月 日本農芸化学会(札幌コンベンションセンター)

ヨーグルトの食感の見える化〜破壊過程に着目した物性・構造の解析〜

○日下舞1、市村武文3、風間紫穏1、上川理絵2、中村卓1(1明治大農・農化、2明治大院農・農化、3(株)明治)

【目的】

ヨーグルトのおいしさにとって食感は重要な要因である。その食感は咀嚼により食品構造を破壊することによって発現する。構造破壊の過程を明らかにすることは、望まれる食感を実現するための指標となる。ヨーグルトの構造は原料の混合・均質化・殺菌・発酵・冷却の過程の中で形成される。この形成過程において原料の殺菌温度を変化させるとヨーグルトのカード強度が変化し、食感に影響することが知られている。しかし、その食感の違いがどの様な構造的要因によるかは明らかではない。そこで本研究では原料殺菌温度の異なるヨーグルトについて、破壊過程に着目した物性測定・構造観察を行ない、食感の違いを構造的要因から見える化することを目的とした。

【方法】

殺菌温度の異なるヨーグルトミックス3種(70℃殺菌・110℃殺菌・130℃殺菌)を発酵・冷却し、異なる特徴のヨーグルトを作成した。物性測定では、第一咀嚼を想定してクリープメーターを用いた破断強度試験を行った。咀嚼後期過程を想定してレオメーターを用いた動的粘弾性試験を行った。また、構造観察では、未破壊および破壊後のヨーグルトを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られた結果についてはSPSSを用いて統計処理を行った。

【結果および考察】

破断強度試験の結果、110℃殺菌のヨーグルトは70℃・130℃殺菌のヨーグルトに比べて破断応力が有意に高く、さらにもろさ応力が生じた。また、動的粘弾性試験の結果においても110℃殺菌のヨーグルトは貯蔵弾性率(G’)の値が有意に高くなった。これは110℃殺菌のヨーグルトの硬い食感を生じることと一致した。構造観察では、未破壊の構造において、130℃殺菌のヨーグルトではカゼインミセルがひも状につながった細いストランド(太さ300 nm)のネットワーク構造が観察された。110℃殺菌のヨーグルトではカゼインミセルが太く集まってつながったストランド(太さ1000 nm)のネットワーク構造が観察された。一方、70℃殺菌のヨーグルトではカゼインミセルがランダムに凝集し、ストランド状のネットワーク構造は観察されなかった。圧縮破壊構造では、目視レベルにおいて破片サイズは殺菌温度が高いほど小さく細かい構造だった。これが130℃殺菌ヨーグルトのなめらかな食感の要因であると考えられた。顕微鏡レベルでは、70℃殺菌のヨーグルトは凝集体がさらに集まった大きな塊が観察された。110℃殺菌のヨーグルトでは太いストランドのネットワーク構造が引きちぎられている様子が観察された。130℃殺菌のヨーグルトではひも状につながったストランド構造が伸びている様子が観察された。以上のように破壊前後の構造を比較することにより、殺菌温度の異なるヨーグルトの亀裂発生と凝集塊形成のメカニズムが異なることが明らかとなった。

祝企業賞受賞 2015年8月 日本食品科学工学会(京都大学)

市販ハードタイプヨーグルトにおける”クリーミー”食感のみえる化

○日下舞1、風間紫穏1、上川理絵2、高井めぐみ3、市村武文3、中村卓1(1明治大農・農化、2明治大院農・農化、3(株)明治)

【目的】

ヨーグルトのおいしさの表現として”クリーミー”がある。このクリーミーは「風味」と「食感」の両面から複合的に評価される。風味は乳成分が寄与すると考えられる。しかし、食感は具体的には明らかではない。そこで本研究ではヨーグルトの“クリーミー食感”について破壊に着目した官能評価・物性測定・構造観察を行い、可視化・数値化することによってこの感性的な食感表現をより具体的に説明することを目的とした。

【方法】

量販店で購入した市販ハードタイプヨーグルト4種類(A)、(B)、(C)、(D)を試料とした。官能評価では、食感に限定した”クリーミー”と、クリーミーに関係すると仮定した6つの項目について、口に入れてから飲み込む前までの咀嚼時間を意識して行った。物性測定では、第一咀嚼を想定してクリープメーターを用いた破断強度試験を行った。咀嚼後期過程を想定してレオメーターを用いた動的粘弾性試験を行った。また、構造観察では、未破壊および破壊後のヨーグルトを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られた結果についてはSPSSを用いて統計処理を行った。

【結果】

官能評価の結果、サンプル(B)が有意にクリーミーな食感となった。主成分分析の結果、”クリーミー”は第1主成分として「やわらかさ」「舌触りのなめらかさ」と正の相関があり、第2主成分として「粘り」と正の相関があった。分散分析の結果、「舌触りのなめらかさ」において(B)(C)が有意に高かった。これらを破壊した際の破片は(A)(D)よりも小さかった。また、「粘り」において(A)(C)が有意に低かった。特に(C)の破壊後の複素粘度は4サンプルの中で最も低かった。さらに、破壊過程での物性変化と破壊ヨーグルトの微細構造についても報告し、ヨーグルトの「クリーミー食感」と物性・構造の関係について考察する。