○木村有里,杉山明美,中村卓(明治大農・農化)
各種澱粉が添加されたパンが市販されており、食感の発現における澱粉の役割が注目されている。現在まで、澱粉構成成分であるアミロース・アミロペクチンの構造が明らかにされている。さらに、高水分での加熱による澱粉の糊液に関しては多くの研究がなされてきた。しかしパンなどの製造条件である低水分下での焼成による澱粉粒の構造変化に関する研究は少ない。パンの澱粉は粒構造を保持しており、パンの食感と澱粉の構造との相関を考えるためには、焼成した澱粉粒の構造変化を明らかにする必要がある。昨年度は、由来農産物の異なる澱粉の微細構造を調べた。さらに焼成により澱粉粒表面の微細な凹凸構造が消え、滑らかになることを明らかにした1)。そこで本研究では、焼成による澱粉粒の構造と特性の変化を明らかにすることを目的とした。また、実際のドウと同程度の油脂と水分の存在下での焼成による澱粉粒の微細構造の変化も検討した。
澱粉として小麦澱粉、タピオカ澱粉を用いた。各澱粉に対し0〜45%の水を加え、180℃で30分焼成した。この焼成した澱粉に加水後、遠心し、上清中に溶出する糖分量をフェノール硫酸法にて測定した。さらに、可溶性糖分の分子量分布をHPLCで調べ、アミロース含量をアミロースヨウ素反応にて測定した。また、実際のドウと同程度の油脂と水を加えた後に180℃で30分焼成した澱粉を、原子間力顕微鏡のTapping modeで観察した。
焼成後澱粉に加水すると、糖分が主に澱粉表面から溶出し、その量は焼成時の水分含量が多いほど増加した。この冷水可溶性糖分は、アミロースと低分子化したと考えられるアミロペクチンが主要成分であった。また、実際のドウと同程度の油脂と水分の存在下で焼成した場合も、澱粉粒表面の高さ10nm程度の凹凸構造が消え、滑らかになった。
1)杉山ら:日本食品科学工学会 第51回大会公演集 p.99