2019年11月 日本官能評価学会(家政大:東京)

甘味の発現が遅い甘味料の添加はヨーグルトの「クリーミー風味」を大きく増強する

○河原井紹博(明治大院農・農化)・中村卓(明治大農・農化)

【目的】

ヨーグルトにおいて甘味料は酸味を和らげ食べやすくする目的で添加される。その中でも「非糖質系甘味料」は、近年砂糖の代替甘味料として多く使用されている。非糖質系甘味料は砂糖と比べて高い甘味度を持つだけでなく、砂糖と異なるタイミングで甘味感覚を付与する。そこで本研究では、こうした感覚特性を付与するタイミングの違いがヨーグルトのおいしさを表す「クリーミー」に影響するのではないかと考えた。具体的には、甘味の発現するタイミングが異なる非糖質甘味料(アセスルファムK、アスパルテーム)を添加したヨーグルトで官能評価を行い、甘味の経時的変化の違いと「クリーミー」の関係について検討した。

【方法】

最終添加濃度が1%スクロースあるいは1%相当の甘味になるようにアセスルファムK、アスパルテームの各溶液を市販のプレーンヨーグルトに添加・撹拌し、甘味料添加ヨーグルトを作製した。官能評価では、これら3つのサンプルを用い、「クリーミー風味」と「甘味」の2項目についてシェフェの一対比較法により評価した。また、アセスルファムK、アスパルテームのサンプルについてはTI法により甘味の経時的変化も評価した。

【結果および考察】レオメーターを用いた動的粘弾性試験(歪スイープ試験)を行い、甘味料添加がヨーグルトの物性に影響しないことを確認した。官能評価の結果、「クリーミー風味」はスクロース<アセスルファムK<アスパルテームの順となり、アスパルテームが有意に大きかった。「甘味」はスクロース<アセスルファムK<アスパルテームの順となったが、アセスルファムKとアスパルテームの間に有意差は見られなかった。「甘味」のTI法の結果、立ち上がりの強度は有意にアセスルファムKが、嚥下後はアスパルテームの方が、有意に大きかった。また、完全終了時間はアスパルテームの方が有意に遅かった。この事から、アスパルテームの方が甘味の減衰が遅く持続性が高いため、全体としてのクリーミー風味の評価がより高くなったと考えられた。以上の結果から、甘味の発現が遅い甘味料を添加することにより、ヨーグルトのクリーミー風味を増強できると考えられた。

2019年8月 日本食品科学工学会(北海道大:札幌)

ヨーグルトにおけるネットワーク構造の形成過程の解析

1明治大院農・農化、2(株)明治、3明治大農・農化 ○河原井紹博1,市村武文2,中村卓3

【目的】

ヨーグルトは原料となる乳に乳酸菌を添加し、発酵させることでつくられる。始め乳中に存在していた乳タンパク質(カゼインミセル)は、発酵終了後では網目状のネットワーク構造をとることが知られている。また原料中の乳脂肪粒径が小さい場合においては、乳脂肪が乳タンパク質のネットワークに介在する傾向が認められる。しかし、発酵中にどのような過程を経てネットワーク構造を形成するのかは明らかではない。そこで本研究では、主に発酵中のヨーグルトを時系列で採取し構造観察を行うことで、ヨーグルトにおけるネットワーク構造の形成過程を明らかにすることを目的とした。

【方法】

ヨーグルトミックス(殺菌温度130℃,脂肪含量3%, 無脂乳固形分9.5%,脂肪粒径0.6 μm:通常の脂肪粒径は1.0 μm程度)にスターター菌(LB81乳酸菌)を添加・撹拌し、43℃で発酵を行った。その際、発酵から0分、45分、90分、135分、180分経過したものを採取し、電子顕微鏡による微細構造観察を行った。物性測定では、発酵中における物性の変化を調べるために、レオメーターを用い43℃で動的粘弾性測定を行った。また、発酵中のpH変化も測定した。

【結果】

発酵中の物性測定の結果、G’(貯蔵弾性率)及びイータ*(複素粘度)が発酵開始から90〜110分で増加し始め、110分(約pH5.7)以降大きく増加した。発酵途中を構造観察した結果、0分、45分では脂肪球やカゼインミセルがそれぞれ単独で存在している様子が観察された。一方、90分では、脂肪とタンパク質が会合し、分岐を持った立体的な構造が観察された。この事から、発酵開始90分からネットワークの構造単位となる会合体の形成が始まると考えられる。さらに、135分(約pH5.4)では、一部ネットワーク構造が観察された。そこで、G’が急激に変化する前後の詳細な観察結果についても報告し、ネットワーク構造の形成過程について考察する。

2018年11月 日本官能評価学会(明治大:東京)

弁別閾以下のスクロース添加がヨーグルトの「クリーミー風味」を増強させる

○河原井紹博・中村卓(明治大農・農化)

【目的】

ヨーグルトのおいしさ表現の1つとして「クリーミー」が挙げられる。このクリーミーには、食感と、味や香りからなる風味が重要な要素である。これらを複合的に知覚することによって人はクリーミーを認知していると考えられる。これまでの研究で、クリーミー食感は、やわらかく舌触りがなめらかで、適度な粘りのある食感であることを明らかにした。しかし、風味に関しては明らかではない。そこで本研究では、特に「味(甘味・酸味)」に着目し、官能評価を用いてこれらのクリーミー風味への影響について知見を得ることを目的とした。

【方法】

市販のプレーンヨーグルトに異なる濃度(0,0.5,1,2,4%)でスクロースを添加・攪拌し、糖添加ヨーグルトを作成した。これら5サンプルを用い、「クリーミー風味」「甘味」「酸味」の3項目について、シェフェの一対比較法による評価を行った。また、糖添加がヨーグルトの物性に与える影響を調べるために、レオメーターを用いた動的粘弾性試験(歪スイープ試験)を行った。

【結果および考察】動的粘弾性試験の結果、歪率1%時のG’の値には有意差が見られなかった。この事から、糖添加による物性変化が無いことが確認された。官能評価の結果、添加糖濃度が高い方が「クリーミー風味」「甘味」が高く、「酸味」は低かった。しかし、添加糖濃度0%と0.5%を比較すると、「甘味」「酸味」では有意差が無く弁別閾以下であったが、「クリーミー風味」では有意差が見られた。添加糖濃度1%と2%を比較、2%と4%を比較すると、「甘味」「酸味」では有意差が見られたが、「クリーミー風味」では有意差は見られなかった。以上の結果から、甘味・酸味を変化させることなく、クリーミー風味の増大が可能であることが明らかになった。

2018年8月 日本食品科学工学会(東北大:仙台)

脂肪粒径の異なるヨーグルトにおける食感の見える化―食感の違いと構造・物性の相関―

○河原井紹博1,日下舞2,市村武文3,井めぐみ3,中村卓1(1明治大農・農化、2明治大院農・農化、3(株)明治)

【目的】

ヨーグルトの原料である乳は乳タンパク質及び乳脂肪のエマルション溶液である。エマルションは油滴サイズを変化させることで食感が変化することが多くの食品で知られており、ヨーグルトにおいても、原料乳の脂肪粒径を変化させると食感に影響することが明らかとなっている。しかし、その食感が具体的に知覚食感レベル(やわらかさやなめらかさなど)でどのように異なるのかは明らかになっていない。そこで本研究は、脂肪粒径の異なる原料乳を使用したヨーグルトの食感について官能評価を用いて知覚食感レベルで数値化し、さらに物性測定・構造観察の結果と相関付けることによって、食感の違いを総合的に解析することを目的とした。

【方法】

脂肪球のメディアン径が1.0 μm(以下L)・0.6 μm(以下S)のヨーグルトミックスを発酵・冷却し、ヨーグルトを作成した。その2種類のヨーグルトの食感について、咀嚼による時間軸を想定した計7項目で採点法による評価を行った。物性測定では、一噛み目を想定してクリープメーターを用いた破断強度試験を行った。潰してから飲み込むまでを想定してレオメーターを用いた動的粘弾性試験を行った。また、構造観察では、未破壊および破壊後のヨーグルトを走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。得られた結果を基にSPSSによる統計処理を行った。

【結果】

官能評価の結果、一噛み目を想定した「やわらかさ」においては、SサンプルがLサンプルに比べ得点が低い傾向にあった。これは、物性測定における破断応力の値と負の相関が見られた。また、電子顕微鏡観察の結果、ネットワークのストランドにおいてSサンプルの方が太い割合が高かった。この事から、太いストランドがかたさに寄与したと考えられた。さらに、「なめらかさ」と微細構造の関係性についても考察する。