○片倉佑理子1、市村武文3、高井めぐみ3、日下舞2、中村卓1(1明治大農・農化、2明治大院農・農化、3(株)明治)
ヨーグルトのおいしさにおいて食感は重要な要素であり、咀嚼により食品構造を破壊する過程で発現する。この破壊過程の物性や構造を調べ、官能評価の結果と相関づけることで、食感発現のメカニズムを明らかにし、今後求める食感を創りだす際の指標になると考えられる。本研究では、乳酸菌が菌体外に生成する多糖(菌体外多糖, exopolysaccharide,EPS)がヨーグルトの食感に及ぼす役割に着目した。乳酸菌の中にはEPSを生成するものがあり、この生成量や種類は菌により異なる。中でも著しく多くEPSを生成する乳酸菌で試作したヨーグルトは、一般的なものに比べより粘り強い食感になることが知られている。そこで本研究では、EPS生成能の異なる乳酸菌を用いたヨーグルトの破壊過程における物性や構造の変化を比較検討することで、ヨーグルトの食感におけるEPSの役割と粘り強い食感の発現メカニズムを明らかにすることを目的とした。
EPS生成能の異なる乳酸菌を用いてヨーグルトを試作した(高EPS生成菌=以下H、低EPS生成菌=以下L)。物性測定では、第一咀嚼を想定してクリープメーターを用いた破断強度試験とテクスチャー解析試験を行った。構造観察では、破壊の程度の異なるサンプル(未破壊、圧縮破壊、ずり圧縮破壊、攪拌破壊)について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて構造観察を行った。官能評価で得られた結果についてはSPSSを用いて統計処理を行った。
破断強度試験の結果、もろさ応力はLが大きくHが小さかった。これは官能評価「口どけ」の結果と一致した。また、テクスチャー解析試験の結果、Hは付着力が強くLは弱くなった。これは官能評価「粘り」の結果と一致した。構造観察では、圧縮破壊したHで、他のヨーグルトに比べ明らかに長い鎖長のEPS(4~8 μm程度)が菌の観察されない領域でタンパク質ネットワーク間を架橋する様子が観察された。さらに、ずり圧縮破壊したHでは、一方向に引き伸びたEPSが観察された。このことからHは長鎖EPSが咀嚼による構造破壊によって引き伸ばされることで粘り食感を生じると考えた。