2016年3月 日本農芸化学会(札幌コンベンションセンター)

相分離構造の異なる卵白・寒天共存ゲルにおけるアロマリリースの構造破壊による解析

○上川理絵, 中村卓(明治大院農・農化)

【目的】

プリン等のゲル状食品の構造を形成する成分であるタンパク質と多糖類を共存させると,相分離構造を形成することが知られている。これまでの研究で,卵白タンパク質と寒天の混合ゲルにおいて,卵白と寒天の混合比を変化させると,卵白連続相・寒天分散相(a),両連続相(b),寒天連続相・卵白分散相(c)と,異なる相分離構造を形成することを明らかにした。また,これらの相分離構造の違いにより,ゲルの破壊様式が異なり,食感に影響することを明らかにした。そこで本研究では,おいしさのもう一つの要因である風味,中でも香りの放出(アロマリリース)への,卵白・寒天共存ゲルにおける相分離構造の影響を,構造破壊により解析することを目的とした。さらに,アロマリリースへの唾液の影響も検討した。

【方法】

卵白溶液と寒天溶液を卵白連続相(a),両連続相(b),寒天連続相(c)となるように調製・混合し,疎水性の異なる4種類の香気化合物(Ethyl propanoate,cis-3-Hexenol,Methyl anthranilate, Damascenone)を含むグレープ合成香料を全量の0.4%添加した。この溶液を95℃で10分間加熱後,氷水中で10分間冷却,5℃で一晩冷蔵しゲルを作製した。作製したゲルについて,クリープメータによる破断強度試験を行った。また,共焦点レーザー走査顕微鏡,走査型電子顕微鏡による構造観察を行った。さらに,HS-SPME-GC法により口腔内での咀嚼をイメージした圧縮破壊後のアロマリリース量を測定した。このとき,SPMEにて香気成分を吸着する時間を破壊後0,5,10,60分とし,アロマリリースの継時的な変化を測定した。さらに,人工唾液を滴下してから破壊したゲルについても同様に測定した。

【結果】

アロマリリース測定の結果,Damascenone以外の3種類の香気化合物が検出され,ゲルの破壊後の時間経過に伴うアロマリリース量の変化に差が見られた。特に破壊10分後までのアロマリリースに違いが見られた。香気化合物間の比較では,疎水性の低いEthyl propanoateは時間経過に伴いリリース量が減少,cis-3-Hexenol, Methyl anthranilateは増加した。サンプル間の比較では,疎水性の高いMethyl anthranilateのリリース量の変化に大きな違いが見られた。卵白連続相(a)では破壊5分後までにリリース量が増加し,その後ほぼ一定となった。両連続相(b)では破壊10分後まで直線的に増加した。寒天連続相(c)では破壊5分後までは変化が小さく,5分後から10分後の間にリリース量が増加した。以上のように,異なる相分離構造は破壊後のアロマリリース速度に影響し,その差は特に疎水性の高い香気化合物において大きいことが明らかになった。さらに,アロマリリースへの唾液の影響,破壊構造との関係についても考察する。

祝企業賞受賞 2015年8月 日本食品科学工学会(京都;京都大)

卵白・寒天共存ゲルにおける相分離構造のアロマリリースへの影響〜破壊過程に着目した解析〜

○上川理絵, 中村卓(明治大院農・農化)

【目的】

プリン等のゲル状食品の構造を形成する成分であるタンパク質と多糖類を共存させると、相分離構造を形成することが知られている。これまでに、卵白タンパク質と寒天の混合ゲルにおいて、卵白と寒天の混合比を変化させると、卵白連続相・寒天分散相(a)、両連続相(b)、寒天連続相・卵白分散相(c)と異なる相分離構造を形成することを明らかにした。そこで本研究では、異なる相分離構造のアロマリリースへの影響を明らかにすることを目的とした。

【方法】

卵白溶液と寒天溶液を、相分離構造が異なるように調製・混合し、4種類の香気化合物(Ethyl propanoate,cis-3-Hexenol,Damascenone,Methyl anthranilate)を含むグレープ合成香料を全量の0.4%添加した。この溶液を95℃で10分間加熱後、氷水中にて10分間冷却、5℃で一晩冷蔵しゲルを作製した。作製したゲルについて、物性測定としてクリープメータによる破断強度試験を行った。また、共焦点レーザー走査顕微鏡、走査型電子顕微鏡による構造観察を行った。さらに、HS-SPME-GC法により、未破壊、口腔内での咀嚼をイメージした圧縮破壊後のアロマリリース量を測定した。

【結果】

成分分布構造観察と破断強度試験の結果(a)-(c)のゲルは異なる相分離構造、物性であることが確認できた。また、アロマリリース測定の結果、Damascenone以外の3種類が検出された。未破壊時ではどの香気化合物においても、サンプル間のリリース量に有意差は見られなかった。圧縮破壊後では、Methyl anthranilateにおいてサンプル間のリリース量に有意差が見られ、卵白連続相(a),両連続相(b),寒天連続相(c)の順に増加した。以上より、圧縮破壊後のアロマリリースに相分離構造が影響することが明らかとなった。さらに、ゲルの破壊構造との関係についても考察する。

祝企業賞受賞 2014年8月 日本食品科学工学会(福岡;中村学園大)

新規グミキャンディの開発〜多糖類の組み合わせによるチューイング性の実現〜

○上川理絵1, 大原菜央美2, 中村卓1(1明治大院農・農化, 2明治大農・農化)

【目的】

グミキャンディはチューイング性(噛み応え)を楽しむお菓子である。その食感は、ゲル化剤としてゼラチンを用いることで達成されている。しかし、ゼラチン以外のゲル化剤を用いたグミキャンディは市販されていない。そこで、本研究では、ゲル化剤として多糖類を用いて、ゼラチンのグミキャンディのようなチューイング性を実現することを目的とした。これにより、動物由来の原料を用いない新規グミキャンディの開発が期待される。

【方法】

ゲル化剤として、16種類の多糖類(寒天、HMペクチン、LMペクチン、化工デンプン、タマリンドシードガム、ネイティブジェランガム、脱アシル型ジェランガム、キサンタンガム‐ローカストビーンガム、サイリウムシードガム、ι‐カラギーナン、κ‐カラギーナン、カラヤガム、グアガム、トラガントガム、タラガム、プルラン)を用いた。配合は、砂糖と水飴の固形分比が4:6となるように調製し、ゲル化剤の濃度を変化させて作製可能な配合と食感の検討を行った。また、作製したものについて、破断強度試験を行った。

【結果】

16種類の多糖類を用いて配合と食感を検討した結果、ゲル化し、噛み応えのある食感となったものはネイティブジェランガム、キサンタンガム‐ローカストビーンガム(1:1混合)、サイリウムシードガムの3種類であった。しかし、ネイティブジェランガム、キサンタンガム‐ローカストビーンガムを用いたものは、ゲル化剤が水に分散しづらく、加熱中に流動性がなくなり、型に充填することができなかった。また、サイリウムシードガムを用いたものは、やわらかく、形を維持できなかった。そこで、各多糖類にさらに寒天を添加すると、これらの問題点が改善され、作製が可能となった。破断強度試験の結果から、作製したものはゼラチンのグミキャンディのような噛み応えがあることが明らかとなった。さらに、応用例として、「ベジグミ」を提案する。

2013年8月 日本食品科学工学会本大会(実践女子大)

アラビアガム添加グミキャンディの構造と物性・アロマリリースの相関

○上川理絵, 高坂窓香, 廣瀬修吾, 中村卓 (明治大農・農化)

【目的】
食品のおいしさにおいて食感と風味は重要な要因である。食感と風味には、食品構造が影響を与える。また、グミキャンディは食感と風味を楽しむお菓子である。グミキャンディの食感はゼラチンのネットワーク構造によるものである。これまでの研究により、多糖類であるアラビアガムを添加することで、ゼラチンと相分離構造を形成し、食感が変化することを明らかとした(1)。しかし、相分離構造の形成がアロマリリースに与える影響は明らかではない。そこで本研究では、アラビアガムに着目し、アラビアガムの添加量を変化させて作製したグミキャンディについて、構造と物性・アロマリリースの相関を明らかにすることを目的とした。

【方法】
グミキャンディは固形分濃度でゼラチン5%と一定にし、ゼラチン単独グミ、アラビアガム5,10,15,20%添加グミの計5種類を用いた。さらに、4種類の香気化合物(Ethyl propanoate,cis-3-Hexenol,Damascenone,Methyl anthranilate)を含むグレープ合成香料を全体量の0.5%添加した。これらについて、物性測定として破断強度試験を行った。また、走査型電子顕微鏡により構造を観察し、得られた画像を画像解析ソフトにて処理した。さらに、香気分析において、ヘッドスペース(HS)に放出された香気化合物を、SPMEにより捕集し、GCによりリリース量を測定した。

【結果】
破断強度試験の結果より、アラビアガム添加濃度を増加させると、破断応力が増加することが明らかとなった。これには、アラビアガム10%添加から相分離が起こり、連続相であるゼラチンのネットワーク密度が上昇したこと、さらにセル構造の直径の減少と個数の増加が影響していると考えられる。また、未破壊グミでのアロマリリース分析において、アラビアガム添加濃度を変化させると香気化合物のリリース量が変化することが明らかとなった。さらに、咀嚼をイメージした破壊グミでのアロマリリースの分析についても報告する。(1)第56回日本食品科学工学会 p125 3Bp10