卵白溶液と寒天溶液を卵白連続相(a),両連続相(b),寒天連続相(c)となるように調製・混合し,疎水性の異なる4種類の香気化合物(Ethyl propanoate,cis-3-Hexenol,Methyl anthranilate, Damascenone)を含むグレープ合成香料を全量の0.4%添加した。この溶液を95℃で10分間加熱後,氷水中で10分間冷却,5℃で一晩冷蔵しゲルを作製した。作製したゲルについて,クリープメータによる破断強度試験を行った。また,共焦点レーザー走査顕微鏡,走査型電子顕微鏡による構造観察を行った。さらに,HS-SPME-GC法により口腔内での咀嚼をイメージした圧縮破壊後のアロマリリース量を測定した。このとき,SPMEにて香気成分を吸着する時間を破壊後0,5,10,60分とし,アロマリリースの継時的な変化を測定した。さらに,人工唾液を滴下してから破壊したゲルについても同様に測定した。
【結果】アロマリリース測定の結果,Damascenone以外の3種類の香気化合物が検出され,ゲルの破壊後の時間経過に伴うアロマリリース量の変化に差が見られた。特に破壊10分後までのアロマリリースに違いが見られた。香気化合物間の比較では,疎水性の低いEthyl propanoateは時間経過に伴いリリース量が減少,cis-3-Hexenol, Methyl anthranilateは増加した。サンプル間の比較では,疎水性の高いMethyl anthranilateのリリース量の変化に大きな違いが見られた。卵白連続相(a)では破壊5分後までにリリース量が増加し,その後ほぼ一定となった。両連続相(b)では破壊10分後まで直線的に増加した。寒天連続相(c)では破壊5分後までは変化が小さく,5分後から10分後の間にリリース量が増加した。以上のように,異なる相分離構造は破壊後のアロマリリース速度に影響し,その差は特に疎水性の高い香気化合物において大きいことが明らかになった。さらに,アロマリリースへの唾液の影響,破壊構造との関係についても考察する。