村山真子,○福岡勇介,中村 卓(明治大農・農化)
食肉のおいしさにおいてテクスチャー(食感)は重要である。近年の傾向としてよりやわらかい食品が好まれる。鶏むね肉は脂肪が少なくよりヘルシーな食肉として注目されている。しかし、むね肉は加熱調理で硬くなりパサつくため、日本ではよりやわらかくジューシーなもも肉が好まれている。一方、食肉をよりおいしくするために食肉加工が行われてきた。タンブリング処理はマッサージ効果を促進する食肉加工法として広く用いられている。しかし、鶏肉のタンブリング処理についてはあまり研究されていない。 そこで、本研究では、鶏むね肉をでん粉と一緒にタンブリング処理し、加熱調理後によりソフトでジューシーなテクスチャーをもつ唐揚げを実現することを目標とした。さらに、タンブリング処理による肉筋線維の構造変化を調べ、鶏むね肉をソフト化するメカニズムを明らかにすることを目的とした。
鶏むね肉について、@未処理Aタンブリング処理(調味液)Bでん粉タンブリング処理(でん粉添加調味液)の3種類のサンプルを調製した。その後160℃で5分間唐揚げ調理し、室温で1時間放置したものを加熱サンプルとした。加熱サンプルの重量を測定した結果、未処理・タンブリング処理・でん粉タンブリング処理の順で重量が大きくなった。これは水分が保持されたためと考えられた。破断強度測定では、未処理・タンブリング処理・でん粉タンブリング処理の順に破断中の荷重が小さくなりやわらかくなった。さらに共焦点レーザー走査型顕微鏡、走査型電子顕微鏡にて微細構造を観察した。タンブリング処理・でん粉タンブリングでは筋線維束間、筋原線維間に隙間が生じ、でん粉タンブリング処理では筋線維束間にでん粉の存在が確認できた。 これらの結果より、調味液中にでん粉を添加しタンブリング処理することで、ソフトでジューシーな唐揚げを作製することができた。
○福岡勇介,中村 卓(明治大農・農化)
加工でん粉とはでん粉に各種加工を施して本来の物性の一部を改質したでん粉のことを言う。現在、工業的に用いられている加工でん粉の多くは化学薬品を用いてスラリー状態で作製されている。そのため製品への薬品の残留や廃水による環境負荷など様々な問題が挙げられる。そこで以前にタンパク質とTransglutaminase(TGase)を用い、添加水分量を最小量にすることによって粉体状態で加工でん粉を作製し、その糊化特性について報告した1)。今回はその加工でん粉の機能特性変化とそのメカニズムについて報告する。
でん粉としてタピオカでん粉を、タンパク質として大豆分離タンパク質(SPI)を、酵素としてTGaseを使用し、流体運動型粒子加工装置を用いて加工でん粉を作製した。作製後、加工でん粉よりタンパク質を抽出し、SDS-PAGEによって重合化を確認した。加熱糊化特性は、膨潤度、可溶性糖分などを測定した。この結果膨潤度、可溶性糖分の溶出の抑制が確認できた。共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)など各種顕微鏡によってでん粉粒表面を観察した。この結果でん粉粒の表面にタンパク質の存在が確認できた。次にProteinase-Kを加工でん粉に作用させた。このでん粉よりタンパク質を抽出しSDS-PAGE分析したがタンパク質のバンドは検出されなかった。さらにCLSMを用いてでん粉粒を観察したところタンパク質は見られなかった。このことからでん粉粒表面に存在していたタンパク質が分解除去されたと考えた。さらに膨潤度、可溶性糖分量を測定した結果、タンパク質除去でん粉では抑制は見られなくなり、未加工と同程度になった。以上の結果から加工でん粉の糊化特性に影響を及ぼしていたものが表面に存在したタンパク質であることが明らかとなった。
1)福岡ら:日本農芸化学会2004度大会講演要旨集、p.66
○福岡 勇介,中村 卓(明治大農・農化)
冷凍食品,レトルト食品などの加工食品製造において天然でん粉では対応が困難な場合が多い。そのため、加工でん粉が使用されている。その多くは、でん粉を水に懸濁し化学薬品を用いて作製されている。そこで本研究では、安全な食品タンパク質とTransglutaminase (TGase)を用い、さらに廃水がでないよう添加水分量を最少量にした加工でん粉の作製を目的とした。以前に固定容器型底部撹拌式混合機を用いた加工でん粉作製については報告した1)。今回は流体運動型加工装置を用いた加工でん粉作製とその性質について報告する。
でん粉を転動流動層にて撹拌しながらタンパク質溶液を噴霧した。次にTGase溶液を噴霧し、酵素反応後、乾燥を経て加工でん粉とした。加工でん粉を顕微鏡観察したところ、でん粉粒表面にタンパク質が存在した。加工でん粉よりタンパク質を抽出し、SDS-PAGEを行ったところ、でん粉粒表面においてTGase反応が進んでいることが確認された。さらに加工でん粉では糊化膨潤抑制の傾向が認められた。
1)福岡,中村:日本食品科学工学会 第50回大会講演集p86(2003)
○福岡勇介,中村卓(明治大農・農化)
現在、トランスグルタミナーゼ(TGase)は水産練り製品や蓄肉製品などタンパク質を含む食品の物性を改良するために広く利用されている。これまでTGaseを用いたタンパク質製品の物性改良についての研究は行われてきたが、でん粉の改質にTGaseを用いた報告はない。そこで、本研究ではTGaseと食品タンパク質を用い、さらに添加水分を最小量とし、スラリー状態ではなく粉体状態で酵素反応させるという新しい方法によりでん粉の改質を試みた。
でん粉としてタピオカでん粉を、食品タンパク質として大豆分離タンパク質(SPI)を、TGaseは味の素社製のアクティバTG-Kより分離して用いた。加工方法として、でん粉に対してタンパク質量1%以下となるようにタンパク質溶液を加えミキサーで撹拌した後、さらにTGase溶液を加えミキサーで撹拌した。撹拌後、酵素反応、乾燥、粉砕し加工でん粉とした。でん粉の糊化特性をRapid Visco Analyser(RVA, Newport ScientificPty.Ltd.)により測定した。TGaseによるタンパク質の重合化はSDS-PAGEで測定した。SPIのみ添加、TGaseのみ添加したでん粉では未加工と比較してRVAパターンに大きな差は見られなかったのに対し、SPI添加後にTGaseを添加した加工でん粉では糊化開始温度が変化し最高粘度が大きく低下した。SDS-PAGEの結果からタンパク質のバンドが高分子側にシフトしており、TGaseによるタンパク質の重合化が認められた。以上のことから、TGaseと食品タンパク質によりでん粉の糊化特性を改質したと考えた。さらに、各種顕微鏡によるでん粉粒表面の観察結果についても報告する。