2012年3月 日本農芸化学会本大会(京都女子大)

澱粉糊化とジェランガムゲル化の順序の異なる共存ゲルの破壊構造の比較

○藤原 祥愉、森口 奈津美1、小林 佳祐1、青山 博明、猶塚 雄太1、中村 卓

【目的】

食品は多成分からなり、なかでも蛋白質や多糖類のような高分子が構造を形成し食感を発現している。それら成分の構造変化が起こる温度帯が異なるため、製造工程における加熱冷却履歴の違いにより異なる食感が発現する。これまでに加熱により糊化する澱粉とCa2+存在下で冷却により熱不可逆性のゲルを形成するジェランガムを用いて、加熱冷却履歴・澱粉種・澱粉濃度の違いにより、異なる構造と物性が発現することを明らかにした1)。そこで今回はこれら物性の違いが発現した要因についてゲルの破壊構造の観察から明らかにすることを目的とした。

【方法】

澱粉はコメ、タピオカ、バレイショの3種を用いた。最終濃度がジェランガム(0.3%)澱粉(10%)になるように調整した。ジェランガムを95℃で溶解、55℃に冷却後澱粉を添加、懸濁させた。0.04%になるようCaを添加後、A:直ちに氷水中で冷却(未糊化,ゲル化)、B:95℃で10分加熱した後氷水中で冷却(糊化→ゲル化)、C: 10分氷水中で冷却後95℃で10分加熱し再び冷却(ゲル化→糊化)。以上のように加熱冷却履歴の異なる3パターンのゲルを作製した。クリープメーターで99%圧縮した破壊ゲルを化学固定し、走査型電子顕微鏡で微細構造観察を行なった。

【結果および考察】

Cパターン(ゲル化→糊化)の応力-歪曲線においてコメではジェランガム単独よりも高い立ち上がり応力を、タピオカでは低い立ち上がり応力を示すことを報告した1)。破壊ゲルの構造観察からコメではジェランガムと澱粉の両方が亀裂面で観察され、両成分がネットワークを形成していることが明らかとなった。一方タピオカでは澱粉のみが亀裂面で観察され、澱粉がネットワークを形成している事が明らかとなった。以上の事から応力-歪曲線においてジェランガムと澱粉の両方がネットワークを形成するゲルでは高い立ち上がり応力を、澱粉がネットワークを形成し、ジェランガムネットワーク構造を破壊したゲルでは低い立ち上がり応力を示すと考えられる。 またBパターンの応力-歪曲線において、高歪で破断したタピオカは破壊構造観察で亀裂面に澱粉の長い伸びが観察され、タピオカよりも低歪で破断したバレイショ、コメは亀裂面で澱粉の短い伸びが観察された。澱粉糊液の曳糸性は澱粉の種類によって異なっており、タピオカ澱粉は非常に高い曳糸性を示すことが知られている。これらのことから澱粉自身の持つ伸び(曳糸性)は応力-歪曲線の破断歪率に影響を与えると考えられる。 (1)日本食品科学工学会 2011年度大会要旨集P.71

2011年9月 日本食品科学工学会本大会(東北大)

澱粉糊化とジェランガムゲル化の順序の異なる共存ゲルの構造と物性の比較

○藤原祥愉 山田芳 猶塚雄太 小林佳祐 中村卓

【目的】

食品は多成分からなり、なかでも蛋白質や多糖類のような高分子が構造を形成し食感を発現している。それら成分の構造変化が起こる温度帯が異なるため、製造工程における加熱冷却履歴の違いにより構造変化する順序は異なる。しかしこれら順序の違いが構造と物性にどのような影響を与えるのかは明らかではない。そこで本研究では加熱により糊化する澱粉と加熱溶解後2価のカチオンを添加し、冷却することで熱不可逆ゲルを形成するジェランガムをモデル系として用いて、ジェランガムネットワーク形成と澱粉糊化の順序の違いが食感に与える影響を構造と物性の面から明らかにすることを目指した。

【方法】

最終濃度がジェランガム(0.3%)澱粉(2.5%,5%,10%)になるように調整した。ジェランガムを95℃で溶解、55℃に冷却後澱粉を添加、懸濁させた。0.04%になるようCaを添加後、A:直ちに氷水中で冷却(未糊化,ゲル化)、B:95℃で10分加熱した後氷水中で冷却(糊化→ゲル化)、C: 10分氷水中で冷却後95℃で10分加熱し再び冷却(ゲル化→糊化)。以上のように加熱冷却履歴の異なる3パターンのゲルを澱粉種と濃度を変えて作製した。これらの混合ゲルについて走査型電子顕微鏡を用いて微細構造観察、クリープメーターを用いて破断測定を行った。

【結果】

加熱冷却履歴の異なるゲルで微細構造の違いが観察された。澱粉10%濃度では、A,Cにおいてジェランガムがゲルのマトリクスとなるネットワークを形成していることが観察されたが、Bでは観察されなかった。破断測定において、応力ひずみ曲線がA,Cはジェランガム単独とほぼ同じ立ち上がりであったが、Bは低かった。以上より、澱粉10%濃度では、先に澱粉が糊化した場合、膨潤した澱粉がジェランガムのネットワーク形成を阻害したため、ゲルの応力が低下したと考えられた。このことから澱粉糊化の順序の違いが異なる食感を与えることが明らかとなった。澱粉種と濃度の異なる場合についても、共存ゲルの構造と物性への影響について報告する。