機能的ナノ構造体の創成と応用プロジェクト

 

プロジェクト研究員の役割分担

 本プロジェクトは大きく分けて材料系、物理系、生物系の3グループから構成されています。物理系グループは、ナノ構造体を構築する、ナノ構造配列を作る、 電子素子や水素貯蔵体としての応用を探る、などの役割を果たします。物理系グループはナノ構造体の磁気的・電気的・分光学的物性などの物性を調べる役割を 果たします。また、生物グループは人工的に構築した構造物とナノ材料を組み合わせ新しい素材を作る研究を行います。タンパク質などの生体物質や人工的に構築したカプセルを組み合わせ、その中に薬剤入れて患部に運ぶドラッグディリバリに応用したり、ほどよい強度と弾性を持つ金属材料を開発して血管拡張用ステンドグラフトに応用したりすることを試みます。構成員の専門分野は生物物理学、結晶物理学、有機化学、無機化学、分析化学、物性物理学、量子光学、材料工学など多岐にわたり、それぞれの専門分野の知識を生かして新しい分野を創造していく予定です。

プロジェクトのこころ

 地球上には細菌から人間まで多種多様な生物が生息していますが、その生命はみな同じ仕掛けよって維持されています。生命を維持するための一番小さな単位は細胞であり、その中には生物であるための特徴である「子孫を残す」、「自分を維持する」、「動く」などの機能を果たす「装置」が入っています。細菌はたった一つの細胞で生きていますが、人間は数十兆個のそれぞれが特化した機能を持つ細胞間の協力により生きています。どの細胞の「装置」も炭素を中心とした有機物であるタンパク質でできているのが地球上の生物の特徴です。タンパク質はアミノ酸と呼ばれる化学物質が数百個つながった構造をしており、そのアミノ酸をつなげる順番はDNAに記述してあります。DNAには単にアミノ酸の配列順が記録されているだけなのですが、生物のすごいところは、この情報だけで複雑な構造をしている装置が自動的に組み上がり、さらに人間のようにたくさんの細胞でできている個体を築き上げるところです。タンパク質は1メートルの1億分の1、つまり10ナノメートル程度の大きさですから、ナノメートルの装置を自動的に組立てることになります。さらに装置を自動的に組合わせてメートルの大きさをもつ「生物」を作り上げるのです。近年人間はナノテクノロジーという技術を発展させ、微小な構造物を作れるようになってきましたが、それでもそれらを組合わせて目で見えるような仕事をする機械を作るには至っていません。本プロジェクトは平成16-20年度に行われた私立大学学術研究高度化推進事業でのプロジェクトの成果である生体物質を利用して作ったナノ構造物を利用して、応用につげていくためのインターフェイスを開発することを目的としています。様々な方法による様々なナノ粒子の作製が報告されていますが、そのままの形態では電子回路素子や生体適合材料として利用できず応用につながってきませんでした。そこで生体物質を利用して構築したナノ構造物同士を組み合わせたり、人工的な構造物と生体物質によるナノ構造体を組み合わせたりすることにより、人間が使えるような構造にすることを目的としています。プロジェクト全体を通じて有機物(タンパク質)と無機物(金属、半導体、絶縁体)の融合を図り新しい構造体を創成することをめざしています。

図1フェリチンの分子模型

A: フェリチンのサブユニット(これが24個集まってフェリチン一分子になる)、B: Aと同じであるが原子を球で表現した。C: サブユニットが24個球状に集まってできたフェリチン分子、D:ナノ粒子を含んだフェリチンを割ってみた想像図

 

タンパク質によるナノ粒子の生成

 ここでいうナノ粒子とは大きさが数ナノ(10億分の1)メートルの無機物粒子、つまり金属や金属化合物などの粒子のことです。先のプロジェクトではフェリチンというタンパク質を使って、この無機物のナノ粒子を作る技術を築いてきました。フェリチンはアミノ酸が174個つがったタンパク質(サブユニット)がさらに24個集まったタンパク質です。図1Aはフェリチンサブユニットのアミノ酸のつながりをひもで表現した分子模型で、バネのような構造が5本寄り集まってできていることがわかります。図1Bはサブユニットのすべての原子をボール状に表示した分子模型で、図1Aでは省略されている原子も表示しているのでふっくらした形になります。このサブユニットが球殻を作るように24個集まり、図1Cで示すボールのような形になります。個々のサブユニットを区別するために異なる色がつけてあります。この分子の中心は空洞になっており、生体ではこの部分に鉄を酸化鉄の結晶として貯蔵しています。結晶は直径が7ナノメートルぐらいですので、「ナノ粒子」です。桃にたとえるとタンパク質は果肉で鉄のナノ粒子が種になります。図1Dのように分子を割ってみると、桃太郎よろしくナノ粒子がでてくることでしょう。フェリチンは生体中では自然に鉄のナノ粒子を作りますが、試験管のなかでも人工的にいろいろな金属のナノ粒子を作らせることができます。図2はフェリチンを使って生成したナノ粒子の一例で、磁性体(磁石)や電気を通す導体のナノ粒子を作ることができます。

図2 フェリチンで作ったナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真

直径は約7nm、結晶格子が観察できる。白い棒は5nmを示している。

ナノ粒子の応用

 ナノ粒子の特徴は小さくなることで、私たちが普段見ている素材とは性質が全く変わってくることです。その新しい性質を利用して新しい素材を作り出そうとしています。図3はタンパク質が結晶を作る性質を利用してナノ粒子をシリコン基板の上に規則的に並べた例です。このナノ粒子一つ一つに情報を閉じ込めることにより、従来からある記憶素子より高密度の素子を作ったり、密度の高い受光素子を作ったりする計画です。また、タンパク質は生体物質ですから無機物を取り囲んで生体適合性のよい素材を作ることも可能です。

図3 ナノ粒子配列の走査型電子顕微鏡写真

フェリチンを平面に敷き詰めることでナノ粒子を規則正しく配列できる。白い小さな点がインジウムを含んだナノ粒子である。