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文化継承学とは何か

 私どもの大学院文学研究科博士後期課程に、「文化継承学」という独自の講座が開設されたのが2004年度です。博士後期課程に在籍する院生と同課程担当教員が、それぞれの専門の枠を越えて、対等の立場で研究報告をし、自由に議論しあう場として設置されました。
 私たちは様々な困難に遭遇したとき、時間を遡らせて先人の叡智や足跡に学ぼうとします。目前の諸事象や諸問題に関心をもったとき、決まってその本源に立ち戻り、ことの本質や成り立ちを考えようとします。そうした歴史的思考は全ての学問を貫く基幹ともいうべきものですが、しかし忘れてはならないのは、過去は過去のまま、歴史は歴史としてアプリオリに存在するではなく、常に後世の人間、当代(現代)を生きる人間によって掘り起こされ、意義づけされることによって初めて息吹が注入され、形を整え、記録(資料)に直され、次へ受け継がれていくということです。

 人文学(人文科学)の最大の役割はまさにここにあります。私たちは人類が歴史の上に刻印してきた営みや行跡の総体を「文化」と捉え、その実相と意味を発掘し明らかにし、次代に「継承」することにあると考えます。過去の世界に向き合いつつ、その先には今日そして未来を見据えている、人文学はそうした意味ですぐれて現代から未来に向けて貢献する学問であると考えます。
 そうした人文学の本義と役割を正面から受け止め、私どもは文化継承学と名づけた講座を設立しました。各自の専門領域を大切にしながら、文化継承学という共通の土俵で視野を広め、自らの足元を鍛え、新たな学問を探求することを目指します。それは大変クリエイティヴな試みであると考えます。
 私たちはこの講座を効率よく実施するために、次のように二つの柱を立てました。

文化継承学Ⅰ
(日本・アジア・西洋の古代中世の歴史や文学や考古を主対象)
文化継承学Ⅱ
(西洋・日本・アジアの近世・近現代の文学や歴史や文化論を主対象)

 この2本柱は厳密な区分ではなく、自由に行き来することが可能です。そして協力し合って講演会や議論しあう場を設け、また成果を毎年『文化継承学論集』にまとめ公表しています(2010年3月で第7号を刊行)。これからもこの試みを継続させ、深い専門性に広い視野と柔軟な思考力をあわせもつ人材を輩出させていくとともに、優れた成果の発信にも務めていきます。

【文化継承学Ⅰ】

1、授業内容・目的

 日本列島の古代を中心とする東アジアにのこされた文化遺産として、⑴文字資料と文学作品、⑵図像と美術・建築資料、⑶出土遺物と遺構、⑷伝承や記憶があげられます。これらは古代人の精神的・文化的営みの結果産み出されたものであり、これまで文学・歴史学・考古学の学問対象となってきました。
 しかし、学問の細分化、研究成果の膨大化により、全体像が見えにくくなっています。日本でいえば弥生時代から平安時代の古代、アジアやヨーロッパでいえばそれと並行する古代中世、そうした次代の文化の総体を多様な角度から全体史的視野に立って解明し、今日のわたしたちが継承すべき文化の基層・原点を明示することを目指します。
 あわせて、専門を越えた学問的・人間的交流のなかで、新たな知見や発想を修得することも期待しています。研究者の道に踏み出す博士後期の院生を対象とする総合講座として、つねに博士論文にどう繋げるか、また国内外にどう発信するかを意識していきます。

【文化継承学II】

1 授業内容・目的

 歴史学はもとより、哲学・宗教も文学も演劇などの芸術も、さまざまな屈折と断絶、葛藤と模索を伴った文化の継承、ひいては表徴と言語と記憶の継承なしには決して成立しえない。この授業は、そうした根本的前提に立って、一方では安易なグローバル化を拒みながらも、他方では、専攻の壁のみならず、地理的相違と時代的相違をも果敢に踏み越えつつ、人種と植民地、家族と狂気、戦争と演劇、アイデンティティと文体、身体・性と図像的表象など多様な主題のもと、専門的研究者による発表と自由闊達な全体的討議を通じて、文化的変容の諸様態とその新たな意義を探っていく。