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研究

本研究室では,機械構造物の弾性変形をともなう線形・非線形振動の力学(構造動力学)を技術的基盤とし,計算力学的手法と実験的手法を駆使したダイナミクスの予測手法の開発を行うとともに,動的応答を活用する事のできる新たな計測方法や,新たな機械システムの創出に取り組んでいます。

進行中の研究テーマ

1. 電気モータの電磁振動解析技術

モータステータの電磁振動 Ref. [1]
電磁力波形

電気自動車やハイブリッド自動車に代表されるように,回転電動機(=モータ)は様々な機械システムに使用されています。本研究では,電動機に発生する電磁振動現象に着目しています。電動機の回転部をロータ,静止している部分をステータと呼び,ステータとロータ間の微小な空隙には,進行波状の電磁力が発生します(図1)。この電磁力は,モータの回転数に同期する周波数成分の他に,モータ極数に関連する周波数成分,そして駆動電圧に含まれる周波数成分に起因した周波数成分等を含んだ複雑な波形を示しています。この電磁力の円周方向の力でロータを回転させる事が出来ますが,ステータはその反作用として進行波状の電磁力による加振を受け,弾性振動します(図2)。ステータは,その機械的特性(密度,弾性係数,など)によって決定される固有振動数をもっています。このため,電磁力によって発生する弾性振動は,様々な周波数成分が含まれた複雑な振動現象となります。この弾性振動は騒音や振動となり,周囲環境や他の機械部材に伝わるため,好ましいものではなく,設計段階においてこの振動現象を予測する技術の確立が望まれています。そこで私たちは,近年考案された回転電動機の振動解析手法[1,2]を元に,これらの手法のさらなる精度向上と,適用範囲の拡大に取り組んでいます。

参考文献
[1] A. Saito et al. Efficient forced vibration reanalysis method for rotating electric machines, J. Sound Vib. 2015. [link]
[2] A. Saito et al. Empirical vibration synthesis method for electric machines by transfer functions and electromagnetic analysis, IEEE Trans. on Energy Conversion, 2016. [link]

2. 接触部を含む機械構造物の振動解析

  • ボルト接合部のあるシステム
ボルト締結したABS板
実験モード解析結果

多くの機械構造物は複数の部品の組み合わせで構成されており,軽量化を実現するためにプラスチック部品の使用が拡大しています。例えば自動車では,バンパやラジエータグリルなどの外装品,エンジンヘッドカバーや冷却ファンなどのエンジンルーム内の部品,インストルメントパネルやステアリングコラムカバーなどの内装品にプラスチック材料が多く用いられています。複数の部品同士を組み合わせるための方法として,ボルト締結,アーク溶接,超音波溶着, 熱間圧接,接着剤など,さまざまなものが存在します。中でもボルト締結は,特別な設備や技術が不要であり,溶接ができない部材や熱に弱い部材でも締結することができるため,プラスチック部品を含め,多くの機械構物で用いられている締結方法の一つです。そこで本研究では,ボルト締結されたプラスチック部材の動特性に着目し,数値解析モデルの構築に取り組んでいます。
参考文献
[1] A. Saito and H. Suzuki, “Dynamic Characteristics of Plastic Plates with Bolted Joints”, Journal of Vibration and Acoustics, 2020. [link]

  • 断続的接触を含むシステム

現実世界の機械の運動・振動は「機械的接触」を含むものがほとんどです。しかしながら,機械的接触は非線形力を生じるため,解析が困難です。例えば,歯車やジョイント,または複合材の一部が剥がれたり,亀裂が入った場合,その機械が運動・振動すると部材同士に接触が生じ,一気に解析が困難になり,挙動の予測も難しくなります。本研究では,中でも複数の弾性振動体が接触を介して連成する場合の非線形共振現象に着目し,その解析方法,および応用方法に関する研究を行なっています[1,2]。

参考文献

[1] A. Saito. Nonlinear resonances of chains of thin elastic beams with intermittent contact, Journal of Computational and Nonlinear Dynamics, 2018. [link]
[2] K. Noguchi, et. al, Experimental and Numerical Investigations on Two Degrees of Freedom Piecewise-linear Nonlinear Systems with Gaps under Harmonic Excitation, IDETC2019, No. IDETC2019-97319, Anaheim, California, USA, August 2019.
[3] A. Saito, J. Umemoto, K. Noguchi, M-H. Tien and K. D’Souza, Experimental Forced Response Analysis of Two-degree-of-freedom Piecewise-linear Systems with a Gap, IDETC2020, No. DETC2020-22289, Virtual conference (St. Louis MO, USA), August 2020.

 

3. 実験モード解析

  • 高精度実験モード解析技術の開発
実験モード解析で可視化した円環弾性体の振動モード

共振周波数,モード形状,減衰比といった機械構造物の振動特性(モーダルパラメータ)を実験的に同定する手法として,実験モード解析があります。例えば自動車や精密機器,またはそれらを構成する機械要素に対して実験モード解析を使用することで,共振を回避するための設計変更を行ったり,周期的荷重の特性を変更するための指針を得る事が出来ます。これらの振動特性は,部材の機械的物性値(密度,形状,弾性係数,等)や,機械の状態により決定される機械構造体固有の特性であると考えられます。我々はこれらのモーダルパラメータを実験的に高精度に取得する技術の開発を行なっています[1].

参考文献
[1] Akira Saito and Tomohiro Kuno, ”Data-driven Experimental Modal Analysis by Dynamic Mode Decomposition”, Journal of Sound and Vibration, 481, 115434 (17 pages), 2020.

4. 固有振動モードの逆解析によるき裂同定とセンサ配置最適化

モーダルパラメータと損傷の関係

トポロジー最適化によって板の損傷を特定する様子[1,2]
物体の機械的物性値や状態がわかっている状態で,動的荷重に対する機械の動的応答の予測や解析を行う事を,順解析と呼びます。逆に機械の動的応答から,機械的物性値,機械の状態,または動的荷重を同定する事を逆解析と呼びます。実験モード解析によって機械構造物のモーダルパラメータは比較的容易に取得することができることから,これらの逆解析による損傷同定が注目されています.本研究テーマでは,実験モード解析結果に最適化計算技術を適用した逆解析により機械構造物の損傷を同定する手法の開発に取り組んでいます[1-5]

参考文献

[1] R. Sugai, A. Saito and H. Saomoto, Damage Identification using Static and Dynamic Responses based on Topology Optimization and Lasso Regularization, IDETC2020, paper DETC2020-22279, Virtual conference (St. Louis MO, USA), August 2020.
[2] J. Isshiki, R. Sugai and A. Saito, Development of Crack Identification Method based on Finite- Element Model Updating and Inverse Eigenvalue Analysis,  ACSMO2020, M3B-3, Seoul, Korea (online), November 2020.
[3] R. Sugai, A. Saito and H. Saomoto, ”Damage Identification using Topology Optimization with Lasso Regularization”, ACSMO2020, W1A-2, Seoul, Korea (online), November 2020.
[4] A. Saito, R. Sugai, and H. Saomoto, “Damage identification from noisy frequency responses using topology optimization and lasso regularization”, 14th World Congress of Structural and Multidisciplinary Optimization (WCSMO-14), ID: 356, online, June 2021.
[5] J. Isshiki and A. Saito, “Effects of mode shapes on crack identification based on finite-element model updating and inverse eigenvalue analysis”, 14th World Congress of Structural and Multidisciplinary Optimization (WCSMO-14), ID: 288, online, June 2021.

5. その他の現在進行中の研究テーマ

  • 電磁誘導型エナジーハーベスターの研究
  • 圧電素子を用いたエナジーハーベスターの研究
  • 異方性材料の物性値同定法の研究
  • メタ構造を用いた振動遮断に関する研究
  • 画像処理による実験モード解析
  • 高精度実験モード解析に関する研究
  • 振動刺激を用いた情報提示デバイスに関する研究

 

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