学生の皆さんへ・・・佐野研究室の紹介 1998.3.10 改訂版
現代技術の社会的展開過程に関する技術史的=技術論的分析
●基本的研究テーマ --- 企業の生産システム・技術戦略と科学・技術の社会的=歴史的発達構造
当研究室で学生の皆さんと一緒に扱う主要な問題は、「企業の生産システムの歴史的展開はどのようなものであったのか?」、「企業の技術戦略がどのようなことを考慮しながらどのような過程で決定されていくのか?」、「企業の技術戦略の成功と失敗がどのような要因によるものなのか?」「新技術の開発と社会的展開過程はどうあるべきなのか?」といった問題です。
もちろん、そうした問題に対しては様々な研究アプローチが可能ですが、当研究室では技術史的=技術論的視点からアプローチします。そして、生産システムの歴史的変化プロセスや現代企業の技術戦略の考察を通して、<現代技術の社会的展開過程に関する技術史的=技術論的分析>をおこないたいと考えています。
言うまでもないことですが、そうしたアプローチのみに基づく分析は限界を持っており、技術的側面からのみ生産システムや企業の技術戦略が決定されるわけではありませんし、技術的に優れたものが最終的に勝利するわけでもありません。また現代において技術的要因が企業の浮沈に関わる最も重要な要因であるわけでもありません。技術決定論的立場は正しくありません。
というのも、企業の生産システムや技術戦略の決定過程、および、決定された生産システムや技術戦略の成功と失敗という事柄には実に多様な要因が関わっているからです。すなわち企業の生産システムや技術戦略という事柄を取り扱うためには、企業の経営理念、経営目標、経営文化、経営状況、あるいはまた経営幹部の個人的特質(性格や知識)などといった当該企業に即したミクロな事柄から、国内および国外の競合企業や関連業界の動向、あるいはまた景気動向といったいわばミドル・レンジの事柄、そして科学・技術の歴史的な発展動向や発展段階、社会構造や時代状況といったマクロな事柄に至るまで、きわめて数多くの諸要因を考察しなければならないからです。
さてこのように極めて複雑な現象である技術戦略という問題に対して、当研究室では技術史的=技術論的立場からアプローチしたいと考えています。技術革新が激しく進む現代においては、技術的要因は最も重要ではないにしても、重要な諸要因の一つになっていることは確かです。それゆえ、生産システムや技術戦略に関する技術史的=技術論的分析が必要なのです。
企業が身にまとっている<生産システム>や<技術戦略>といった「衣服」は、多様な「繊維」(=社会的要因や技術的要因などの諸要因)が複雑に絡み合った「布」から構成されています。それゆえ、個別企業の<生産システム>や<技術戦略>という「衣服」を構成する「布」をどんどん解きほぐしていくならば、やがてそれは色・太さ・材質の異なる多様な「繊維」にまで分解されます。分析的にそのようにして取り出されてきた「繊維」の中の重要な一本の中に「技術」があることは確かでしょう。
具体的研究テーマ・・・パソコン産業史、パソコン技術史、情報通信技術史
●最近の研究関心
上記のような問題関心に立って、最近はパソコン関連産業やそこにおける技術戦略の歴史的展開、コンピュータ技術やインターネット技術をはじめとした新しい情報通信技術の歴史的展開過程といった事柄に特に興味を持って調べています。
例えば、絶え間ない技術革新競争にさらされているパソコン産業において、各企業がデファクト・スタンダードの獲得に向けてどのような技術戦略をとっているのか、またそうした技術戦略の成功と失敗の技術的要因および社会的要因とはどんなものであったのかということです。具体的には、パソコンのCPU開発に関する技術戦略に関するインテルとモトローラとの違い、そうしたリーディング・カンパニーの技術戦略に対応してNECなど日本のパソコン業界が取った技術戦略、IBMとアプッルのパソコン開発に関する技術戦略の違い、マイクロソフトのMS-DOSとDR-DOSなどの互換MS-DOS問題、マイクロソフトのWindowsに対する技術開発戦略とそれに対抗するアップルのOS戦略などに関する実証的分析をおこなっています。
●パソコン産業やパソコン関連技術の歴史的動向
現代における技術革新は、パソコン関連技術に典型的に示されているように過去と比べてすさまじいスピードで進行しています。インテルのCPU開発に示されているように、技術革新をパラノイア的に追求するものだけが生き残る、とまで最近では主張されることがあります。実際パソコンは、その売れ行きの急速な増大(1995年には秋葉原においてパソコンおよびその関連商品の売上総額が何とその他の家電製品の売上総額を上回るまでになった)ということもあり、その処理能力の増大やパソコン用ソフトのバージョン・アップのスピードにはすさまじいものがあります。製品としてのパソコンはインテルのCPU販売戦略もあり、現在では約3ヶ月サイクルで新商品が投入されるようにまでなっています。もっとも、ソフトのメジャー・バージョン・アップ、メモリ規格の頻繁な変更(IOバンク切り替えメモリ・EMSメモリ→SIMM→DIMM・SDRAM→ランバス社規格メモリ?)、バス規格の変更(ISA→VESA→PCI・IDE→EIDE・SCSI・ウルトラSCSI)などもそうですが、そうした絶えざる技術進歩による既存パソコンや既存ソフトの陳腐化がなければ、パソコン産業の発展構造=「再生産」構造が崩れてしまうことにことになります。人々や企業は2年程度で自己所有のパソコンが「使いものにならないほど遅く感じ」たり、「使いたい新機能・新機構がどうしても使えない」という不満から新製品の購入を決断するようになっています。逆にそうでなければ、ここまでの素早い発展はなかったでしょう。
●インターネットによる情報通信技術革新の歴史的意味・・・Electric Businessの実現へ
パソコンに関連する技術発展の重要な一つに、インターネットがあります。その社会的利用や商業的利用への大きな関心と期待の結果としての最近のインターネット・ブームは、現実のインターネットの能力とかなりギャップがあり過熱気味であるとは言え、インターネットを支える情報インフラは急速に整備されつつありますし、インターネット関連技術もハード・ソフトともに急速に進展しつつあります。
インターネット電話はもう既に実用化され、日本でも国際公専公接続が認められたこともあり、国際電話料金の値下げ要因の一つとなっています。また将来的には、インターネットによるテレビやテレビ電話も実用化されるでしょう。こうした情勢の中、マイクロソフト社はネットスケープ社と比べて少し出遅れてはいましたが、少し前からOSとしてのWindowsのインターネット対応を技術開発戦略の重点に置くようになっています。インターネット・エクスプローラーやWEB-TVなどインターネット対応へのマイクロソフトの注目度は極めて高いものがあります。
またPOS(Point of Sales、販売時点管理)やCIM(Computer Integrated Manufaucturing、コンピューターによる製販統合)といったプリミティブな形態から始まって、今やインターネット(あるいはイントラネット、エクストラネット)による電子受発注システム・電子決済システム・貿易実務の電子化などによるEC(Electric Commerce)やEB(Electric Business)が現実化しようとしていますが、こうしたことが技術的に可能になったのはコンピュータ技術とインターネット技術の発展によるものです。
●研究室へのお誘い
パソコン産業や情報通信産業のように技術競争の激しい産業にあっては、企業の取る技術戦略が企業としての浮沈に大きな影響を与えます。そういう意味では、現代は技術戦略と技術発展の相互関連という問題を研究するのに極めて都合のよい時代と言えるでしょう。しかしながら、まだそうした研究テーマに関する技術史的研究や技術論的研究はさほど多くはありません。
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電子メールやインターネット・サーフィンが大好きだという人を歓迎します。sedやperlやjgawkなどのスクリプトを書くのが大好きだというマニアの人も歓迎します。(今ではマイナーですが、dBase言語が得意だという人は個人的には特に歓迎します。)
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