ウェーブレットによる経済時系列の解析

  明治大学法学部 阪井和男

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ウェーブレットは時間周波数解析方法として近年注目を集め、さまざまな分野に応用されつつある。特に、非定常な時系列や画像などの二次元的データなどの解析方法として、次に示すように非常に優れた方法である。
(1) 時間スケールに対して階層的な解析方法であるため、フラクタル解析を包含している点。
(2) データの周期性を仮定する必要がない点で、周期性を仮定せざるを得ないフーリエ解析よりも非定常信号に対して本質的に有効である点。
(3) 周波数とともに時間に対しても不確定性関係の制約のもとに同時に特定した解析ができる点。

本研究においては、ウェーブレットがもつこのような特性を利用して、非定常な時系列の例として国内総生産(GDP)の四半期データを用いて、周期性のなかに見られる非定常的な変動の解析を試みた。

ウェーブレットによる時系列の展開においては、各時間ごとの変動を表すのはウェーブレット係数である。四半期のデータを用いてウェーブレット係数を求めると、半期ごと、年ごと、2年ごと、4年ごと、8年ごとなどの時間スケールに応じたウェーブレット係数が時間順に得られる。GDPのように季節変動性が強いながらも成長しつづけるような時系列の場合、それぞれの時間スケールにおけるウェーブレット係数にも正負の振動的な変動が現れる。

今回の解析によって、これらの振動的な変動に不連続な変化を見出すことができた。見出されたのは、4年ごとの時間スケールにおけるウェーブレット係数の8年周期振動の位相のずれと振幅の増大である。この不連続変化が見られるのは、12年〜8年前(1985年〜1989年)に該当し、1986年から始まったバブル期に相当している。さらに、ウェーブレット係数の8年周期振動とその不連続変動を見出したことにより、これらを外挿することで時系列予測が可能となる。

ウェーブレット解析の特徴は、解析方法が非常にシンプルなことである。通常の経済時系列解析においては季節変動などの除去を行なうためのさまざまな前処理を時系列データに対して行なうが、ウェーブレット解析の場合は前処理に対応する一切のデータ変換を必要としない。ウェーブレット解析を始めるに当たって必要なことは次の二つだけである。
(1) 基本ウェーブレットをどう選ぶか。
(2) 時系列データに対する境界条件をどう選ぶか。
これまで経済時系列の解析手法として開発されてきたさまざまな手法があるが、ウェーブレット解析は手法のシンプルさのため、既存の手法よりも優れたモデル化手法を与える可能性がある。

以上。


解析資料


Meiji University Kazuo SAKAI (明治大学 阪井和男)