食品の品質、加工特性などを決定するのは食品成分であるが、食品を貯蔵、加工するときに様々な食品成分間での反応が起こることが知られている。その代表的な反応がアミノ化合物と還元糖などのカルボニル化合物によるメイラード反応であり、図に示したような主要経路が知られている。人間の体の構成成分も食品成分と類似しているために、近年ではこのメイラード反応が生体内においても起こることが証明されている。その反応が老化や糖尿病や動脈硬化などの成人病と関連しており、食品と生体の境界領域を占める研究へと進展している。
 当研究室では食品・生体におけるメイラード反応に着目して、反応生成物の同定並びに反応機構の解析や生成物の生理作用について解析を進めている。アマドリ化合物以降の反応で生成するピラリンやペントシジンは後期段階生成物(AGE)として知られており、老化や糖尿病の指標になりうると考えられている。これら以外にも多くのAGEが生成すると報告されているので、モデル系などを用いて架橋構造や蛍光生成物などのAGEの構造解析を試みている。また、この反応は酸素濃度や遷移金属などの因子によって影響を受けるため、種々の環境因子を変動させてAGEの生成機構を検討している。
 この反応は食品加工・貯蔵・調理過程での着色や香気成分の発現など、食品の官能機能である二次機能の発現に深く関与している。この機能の解析を目的として、メイラード反応により生成する色・香り・味に関する成分の解明とそれらの生成機構および二次機能発現機構などについても研究を進めている。
さらに食品には従来の栄養素が有する一次機能とは異なり、生体調節機能を現す三次機能が明らかとされてきている。即ち、食品由来の特定の外因性物質が生体の内因性物質と協同して神経系、内分泌系、免疫系などを調節し、ホメオスタシスを維持していると推察されている。この食品機能は、農学・薬学・医学・理学を包括する学際的な研究対象であり、生命科学の重要な研究分野となりつつある。
 メイラード反応の最終生成物であるメラノイジンは、褐色を呈した食品のみならず、上述したように、生体内においても生成すると推定されているので、外因性および内因性のメラノイジンがどのような生理作用を有するかは興味深い研究課題である。メラノイジンはin vitroでは抗酸化活性・活性酸素消去活性・発癌物質であるヘテロ環アミノ化合物に対する脱変異原活性などを有し、三次機能を発現する食品成分として考えられている。当研究室ではメラノイジンの抗発がん性を明らかにするために、初代培養肝細胞を無血清培養するとともに種々の発がん性物質を添加し、発がんマーカータンパク質の生成をそのmRNAの発現によって調べている。この培養系にメラノイジンを加えたときのmRNAの発現の低下を測定することによって、化学発がん抑制活性を検定している。この手法は他の食品成分の化学発がん抑制活性のアッセイにも応用できると期待されている。


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